2019年度の在外研究において、イギリスの公的賃貸住宅セクターで独自に発展したハウジング・マネジメント(HM)と呼ばれる専門職と、これに関する豊富な研究蓄積に触れた。イギリスにおいて、HMは不動産管理であるとともに対人社会サービスであり、ソーシャルワークの要素を含む活動として理解されている。日本にはこうした専門職は存在しない。それは、HMの大部分がインフォーマルな社会関係において遂行されてきたからであると考えられる。しかし、高齢化、個人化、災害の頻発などにより、こうした潜在的なHMの基盤が失われ、サービスの顕在化が求められる。このような仮説にもとづき1980年代以降の日本の住宅政策について基本的な整理を行ったところ、①「住宅」と「施設」の中間形態。②公共賃貸住宅と民間賃貸住宅の中間形態。③世帯内のセルフサービスと専門化されたサービスとの中間形態が表れていることが分かった。 2000年代以降の住宅政策の重要な特徴は、サービスへの介入である。2006年度以降策定されている住生活基本計画は、住宅市場の整備と産業振興を基調としつつ、住宅セーフティネットにも言及してきた。2007年の住宅セーフティネット法は「居住支援協議会」についての規定を設け、2017年の改正法は「居住支援法人」に関する補助と監督の仕組みを加えた。こうした法整備は、福祉政策の再編とも軌を一にしている。2018年に成立した生活保護法等の一括改正法において、無料低額宿泊所についての規制が強化され、「日常生活支援住居施設」という類型が付け加えられた。公的供給主体の整理や公営住宅の新規建設の抑制によるハウジングからの退却と、住宅政策の外部にあった領域を取り込もうとする動きが同時に進行してきた。「居住支援」という概念の形成は、日本社会が、福祉国家の形成過程で回避したHMの再構築という課題に直面しつつあることを示唆している。
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