本研究は「大正・昭和初期都市新中間層における理想的人間像の形成と変容」というテーマについて、社会学的分析を行うことを目的になされた。特に、大正・昭和初期を中心に活躍した佐々木邦の作品と読者層を中心に分析し、近代日本社会において、都市新中間層の台頭とともに、理想的な「文明化」された人間像のモデルがどのように形成・受容されていったかについて明らかにすることを試み、学術論文執筆や学会発表などを行ってきた(研究期間全体の活動について詳しくは、研究成果報告書を参照)。ここでは最終年度の活動を中心に記す。まず、「都市新中間層文化の生成と佐々木邦――「私民」の「市民」化の可能性」(『『日本型』教育支援モデルの可能性(仮題)』高山敬太編、2023年、日・英語にて出版予定。原稿提出済み)について、研究者と議論をすすめ、原稿について調整を行った。特に、佐々木の小説に描かれる新中間層家庭の様子の具体的ディテール――西洋的でモダンな家族像、「文明的」な理想像――の意味について考察を深めた。また、学会発表(「フィンランドのナショナリズム研究者アイラ・ケミライネン――「参入」をめぐるディレンマ──」第 73 回 関西社会学会大会、2022年5月)を行った。「文明化」における周辺地域がどのように「文明的」とされる価値観や文化を受容・改変してきたかというテーマにつながり今後のグローバルな文脈での比較検討を視野に入れた。次に、フィクションに描かれる家族像の通時的変容に関連して、論文の執筆(「第18講 朝ドラ――主婦層を支えたビルドゥングスロマン」(『昭和史講義 【戦後文化篇】 (下)』筒井清忠編、2022年、筑摩書房)を行った。次に、育児規範の通時的変容に関係して論文の執筆準備作業を行った(本年度刊行予定)。最終年度ということで、これまでの総括としての作業、および、今後の研究の展開につながる作業をすすめた。
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