研究課題/領域番号 |
18K02032
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
左古 輝人 首都大学東京, 人文科学研究科, 教授 (90453034)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 新自由主義 / テキストマイニング / 概念史 |
研究実績の概要 |
初年度にあたり、資料となる日本語図書、定期刊行物記事を収集した。比較指標として英語図書、定期刊行物記事も収集した。結果、日本語図書約160点、定期刊行物記事約680点、英語図書約640点、定期刊行物記事約4900点を得た。 分析施行したところ、日英に共通点も多いが、日本語では「課題」「現在」「歴史」「法」「構造」「運動」「闘い」「福祉」「批判」などが比較的多く、英語では「development」「democracy」「public」「Latin America」「governance」などが比較的多いことが分かった。日本語における新自由主義は、国内の現代的課題との関連および歴史との関連が強く、英語におけるneoliberalは、国外とくに中南米諸国との関連が強いと言える。 経時的変化を見ると、目につくのは、1901年から1980年代半ばに至るまで、日本語における新自由主義への言及が、英語を圧倒することである。これは戦前の上田貞次朗らによる新自由主義の提唱によるところが大きいが、あるいは英語におけるneoliberalという呼称が、しばしば自称ではなく他称であることも作用している可能性がある。次年度以降データセットの補正を要する。 日本語および英語の分析試行から、ホブソン、ホブハウス、ウィルソンらのnew liberalism、その影響下で1920年代以降提起された日本の新自由主義、戦後ドイツのオルド=自由主義、英米のポストケインズ的自由主義、21世紀に入ってからのハーヴェイ的新自由主義などが的確に検出できた。 次年度は差分情報を補いながら語句間関係の計測をおこない、かつ、抽出した定義部分の分析を加味し、研究の完成の道筋を確かなものとする。なおイェール大学に、モンペルラン協会設立の影の立役者リップマンのアーカイブが存在することが判明したので、資料収集をおこなう予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
7月から9月にかけて、別件で急な外国出張と外国人招聘(連合王国シェフィールド大学、学内の教員交換プログラム。7月末から8月末シェフィールド、9月東京)があり、そのために夏、秋に予定していた学会報告を断念せざるをえなかった。たが、この外国出張によって、第2年度に予定していた報告をいくばくか先取りできた点はよかった。 なお、この件でデータセット作成の作業の進捗の遅れも懸念されたが、事前の準備と、アルバイトの効率的運用が功を奏し、これを回避することができた。なお分析試行では、分析対象を題目、目次などに限定し、本文の光学式文字読み取りによるデータは用いなかった。 夏、秋に報告できなかったぶんは、より内容の密度を高めたかたちで3月の学会報告で取り戻すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は差分情報を補いながら語句間関係の計測をおこない、かつ、OCRで抽出した本文定義部分の分析を加味し、研究の完成の道筋を確かなものとする。 大括りには、新自由主義は、過去120年にわたる経緯の果てにアンブレラタームと化して〈全域化〉している、という作業仮説が浮上している。例えば16世紀英国において、societyという語句は互角な者同士の任意的な協力を指し、17世紀には新たな政治体制をそういうものとして正当化するイデオロギーとなり、19世紀、いわゆるロマン主義者たちが17世紀英国イデオロギーを批判し、〈私の生きている社会は互角な者同士の任意的な協力ではない〉といった使い方をしたことにより、本来の指示対象の反対物をも取り込み、〈全域化〉した。これと同じように、新自由主義も、当初の概念の反対物すらも取り込まれることによって、言論の地平それ自体と化した、と考えられるのではないか。 なお研究を進める過程で、イェール大学に、モンペルラン協会設立の影の立役者ウォルター・リップマンのアーカイブが存在することが判明したので、第2年度の夏に資料収集をおこなう予定である。特に新聞コラムToday and Tomorrowが悉皆(1万点超え)で所蔵されているため、これを電子テキスト化し、上述の作業仮説などを参照しつつ分析することで、意義深い知見が得られるものと期待される。 最終年度は知見をまとめ、学会報告をおこなうとともに論文を刊行する予定である。
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