研究課題/領域番号 |
18K02033
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
山本 薫子 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 准教授 (70335777)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エスニック・マイノリティ / 大都市低所得地域 / バンクーバー / ジェントリフィケーション / 日系カナダ人 / 中国系カナダ人 |
研究実績の概要 |
2018年5月~12月の間にカナダのブリティッシュコロンビア大学社会学科に客員准教授として在籍し、バンクーバーの低所得地域であるDowntown Eastside(DTES)地区で地域調査を実施し、質的データ収集(インタビュー調査、参与観察調査、文書資料収集等)を行った。まず、地域の社会状況把握のため、DTES地区及びその周辺において、障がい者や薬物等の依存症者への医療ケア、福祉ケアの拡充、地価高騰・家賃高騰による住宅不足、ジェントリフィケーション、ホームレス問題の増大に関する状況とそれらに対する地域支援団体の活動について資料収集を実施した。 さらに、居住環境改善を求める社会運動に着目し、そこでの複数エスニック集団の連携に関する質的データを取得した。内容は、(1)適正価格の住宅供給や低所得層の生活環境改善を中心とする居住環境改善要求の住民・地域団体による取り組み、社会運動の展開、(2)そうした取り組み、社会運動に関連した複数の民族、エスニック集団の連携の実態とその背景(とりわけ排斥等の歴史)であり、いずれも団体や関係者へのインタビュー、参加観察調査によってデータを取得した。 DTES地区が第二次対戦前まで日本人町(日系カナダ人が集住する地域コミュニティ)であったという歴史的経緯、およびDTES地区と中華街が隣接しているという地理的状況を踏まえ、特に日系、中国系による権利運動、異議申し立て運動の変遷を確認し、そこでの取り組みと今日見られる居住環境改善を求める社会運動との関わりについても明らかにした。 さらに、現代のカナダおよび北米の社会状況から、先住民、黒人、その他の移民コミュニティらの諸団体の活動についてもデータ収集を行い、日系、中国系らを軸に、地域における複数のエスニック集団の連携状況について、地価高騰・家賃高騰による住宅不足、ジェントリフィケーション等の都市課題との関連から分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は7ヶ月に渡って現地調査を行うことができ、研究課題遂行にあたって質量ともに十分なデータを収集することができた。 当初計画では、エスニック・マイノリティ間の「連携」のみに焦点を絞っていたが、実際に現地調査を行う中で、単に「連携」だけではなく、「対立」「分断」も生じていることがわかった。また、「対立」「分断」の背景には、移民コミュニティやマイノリティ集団の固有の文化や歴史等よりも、行政施策(特に都市計画)を中心とする利益、不利益の分配に関わる競争があることも確認できた。このような仮説修正を踏まえ、今後、より実効性のある調査、データを分析を実施していく。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、前年度調査のデータ整理と文献調査を行う。まず文献調査を通じてカナダを含む北米のジェントリフィケーション、住宅問題とそれに対する施策や居住環境改善を求める住民運動について状況を把握し、バンクーバーで生じている現象の位置付けについて整理する。2019年度は9月、2-3月に再度、現地調査を2週間ずつ程度実施し、移民コミュニテイや先住民らといったエスニック、人種的マイノリティがジェントリフィケーションや居住環境改善をめぐる社会運動の中で、連携(および対立、分断)に至る状況について、2018年度現地調査で確認した事象のその後の過程を確認する。その際、行政施策、とりわけ都市計画との関連についても分析を行う。中間的な成果は学会(日本都市社会学会など)で報告する。 最終年度である2020年度は、前年度までの現地調査等のデータ整理をし、連携(および対立、分断)によって地域のエスニック集団の関係性がいかに変容し、それが地域全体の社会関係や構造にどのように影響したか、分析する。必要があれば8-9月に補足調査を行い、研究結果のまとめを行う。成果は学会(日本都市社会学会、国際社会学会RC21等を予定)で報告するほか、報告書を作成する。
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