研究課題/領域番号 |
18K02042
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
原山 哲 東洋大学, 現代社会総合研究所, 客員研究員 (90156521)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ケア / 脱家族化 / ジェンダー / 病院中心主義 / 高度実践 / ネットワーク / 日仏比較 |
研究実績の概要 |
2018年度において東京圏で実施した調査に引き続いて、2019年度は、フランス側研究協力者であるフィリップ・モッセ(Philippe Mosse、フランス労働社会学研究所LEST)、コリーヌ・グルニエ(Corinne Grenier、エックス・マルセイユ大学、ケッジ・ビジネススクール)とともに、ケアの「高度実践」看護のフランスでの調査を中心に研究を進めた。「高度実践」(adavanced practice)看護師は、上級の教育資格を基軸に、病院だけでなく、地域でのケアのコーディネートを中心とする役割を遂行し、ケアの脱家族化を課題として、医療システムの組織転換に関わると考えられる。 東京圏でのインタビュー調査、および質問票調査の結果をふまえて、フランスでの高度実践看護師を対象に、2019年4月から準備をしたうえで、研究代表者・原山哲が、2019年6月に、パリ地域および南フランスにおいて、インタビュー調査を実施した。調査の実施は、フィリップ・モッセ、コリーヌ・グルニエ、またマリーズ・ブーロンニュ=ガルサン(Maryse Boulongne=Garcin、パリ病院)のフランス側の協力が不可欠であった。 さらに、原山哲が、フランス側協力者、また日本側協力者、山下りえ子(東洋大学法学部)とともに、日本語版の質問票と対応するフランス語版の質問票を作成した。 フランスでの質問票による調査は、2019年9月~11月に、フランス側協力者によって、主としてパリ地域、マルセイユを中心とする南フランスで実施された。12月に、原山哲が、フランス側研究協力者とともに、フランス労働経済社会学研究所LEST、またエックス・マルセイユ大学医学部において、調査結果の分析について検討した。現在、フランスと日本との調査結果を合わせて分析が進行しつつあり、研究報告書のフランス語版と英語版を準備しつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度における東京圏の調査に続いて、2019年度では、フランス側研究協力者とともに、東京圏との比較の視点から、インタビュー調査、および質問票による調査が、パリ地域、南フランスの二地域で実施できた。 このような日仏比較をとおして、とりわけ超高齢社会であるフランスと日本において、ケアの脱家族化の課題をめぐって、次の点が検討された。すなわち、ケアの組織が脱家族化をめざすのであれば、これまでの「病院中心主義」から脱却し、地域における多様なケアのネットワークへと転換することが要件となるだろう。このことから、本研究では、次の三つの地域の比較が、日仏国際比較にとって重視される。すなわち、1)大病院が集中し、地域ケアに開かれた病院組織への転換を課題とするパリ地域、2)在宅医療が発展し、クライアントのトラジェクトリーに即したケアのネットワークが試みられつつあるマルセイユを中心とする南フランス、3)大病院の集中する地域だけでなく、在宅ケアの発展する可能性が高い地域との併存がみられる東京圏。 三地域において、ケアのコーディネーションとしての「高度実践」看護の比較が、ケアの脱家族化の日仏比較にとって有効であるだろうとの仮説から、福島を中心とする地域でのケアの市民社会の生成についての調査の実施は、残念であるが、本研究では割愛することとした。調査を三地域で実施することに集約しつつ、また、調査対象を「高度実践」看護に限定することで、ケアの日仏比較が簡潔となるだけでなく、論点が明晰となるだろう。 現在までの進捗状況は、日仏におけるインタビュー調査、質問票調査をほぼ完了し、研究代表者・原山哲が中心となり、フランスと日本との研究協力者とともに、調査結果の分析を進めているところである。2020年度末をめどに、調査報告書としての英語論文を執筆、投稿するとともに、日本語での共著の著書の刊行を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、これまでにフランスと日本で実施した調査の結果の分析を進める。当初に予定していた研究協力者だけでなく、研究が実施されるなかでフランス側は、フィリップ・モッセ、パロマ・モレ(以上フランス労働経済社会学研究所)に加えて、コリーヌ・グルニエ(エックス・マルセイユ大学、ケッジ・ビジネススクール)、マリーズ・ブーロンニュ=ガルサン(Maryse Boulongne-Garcin)(パリ病院)が、また、日本側は、山下りえ子(東洋大学法学部)に加えて、川崎つま子(東京医科歯科大学病院、病院管理)が協力者として研究組織に参加する。 今後の研究の推進方策は、拡大した研究協力によって、調査結果について深められた分析を行うことである。第一に、ケアのプロフェッショナル、とりわけ「高度実践」看護師、日本では専門看護師、認定看護師といわれているケアのコーディネーターの参加を基軸に、フランスと日本においてセミナーを開催する。そのことによって調査結果の分析について、より適切かつ深められた考察、議論が得られるであろう。第二に、調査結果の分析、および考察について、フランスと日本の研究協力者とともに、調査報告書としての共著の論文を執筆する予定である。共著論文は、現在までのところ、英語論文を執筆、医療に関する社会科学の英語圏の学術誌に投稿することを目指している。それとともに、2020年度末に、フランス語での共著論文(学術誌Perspective soignante, Seli Arslanに投稿予定)、日本語での共著による著書を刊行することを検討している。 セミナーは、2020年12月に、フランス側研究協力者2名を日本に招へいして開催する予定である。また、2021年2月に、日本側の研究代表者、原山哲が、フランス側研究協力者とともに、フランス労働経済社会学研究所において開催する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、日本での調査は、フランス側研究協力者を日本に招へいし、日仏研究者の共同により、検討し、実施する予定であった。しかし、2018年度(2019年2月)に、フランス側研究協力者2名を招へいした際(東芝国際交流財団助成)、その機会に東京での調査について検討することが出来た。 それゆえ、2018年度に予定された調査の旅費は、2019年度において、研究代表者、原山哲が、6月、12月に、フランスでの調査に振り向けられた。調査がフランスと日本でほぼ完了したため、2020年度は、調査結果の分析のための日仏共同研究のセミナーを開催することにし、そのためのフランス側研究者2名の日本への招へいの旅費を予定している。また日仏共同研究による論文執筆のため、原山哲のフランスへの旅費を予定している。
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