研究課題/領域番号 |
18K02042
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
原山 哲 東洋大学, 現代社会総合研究所, 客員研究員 (90156521)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ケア / 脱家族化 / ジェンダー / 病院中心主義 / 高度実践 |
研究実績の概要 |
2018年7月カナダ・トロントでの国際社会学会のケア・ワークのセッションに原山哲(研究代表者)が参加(研究報告)し、調査研究の計画について再検討したが、2019年2月にフランス側研究協力者が来日した際(他機関・東芝国際交流財団による)、東京圏の高度実践看護師とのインタヴューを実施した。さらに、2019年6月に、パリ地域を中心として、また東京において、原山哲が、フランス側協力者とともにインタヴューを実施、12月には、自由記述式の質問票による調査を実施した。 引き続いて、2020年度においては、これらのインタヴュー、自由記述式質問票による調査の結果について、質的分析を、フランスと日本の研究協力者の共同によっておこなった。フランス側研究協力者は、P.モッセ(フランス労働経済社会学研究所)、C.グルニエ(ベック・ビジネススクール)、M. ブーロンニュ=ガルサン(元パリ公立病院)であり、日本側協力者は、山下りえ子(東洋大学法学部)、川崎つま子(東京医科歯科大学附属病院)である。調査結果において、ケアの脱家族化は、フランスにおいて顕著であるが、日本においても、ケアのコーディネーターである高度実践看護師をとおして確認することができた。 調査結果の質的分析は、主として研究者による考察のフランス語のテキストをとおして、また、それらテキストの英訳をとおして、研究協力者間で意見交換をおこなった。そして、英語版のテキストを集約して、著書にとりまとめ、フランスだけでなくイギリスをふくめたEU圏、そして日本の研究者の間の研究協力の試みを視野に、研究成果の公表として、電子書籍を刊行することにした。そのための刊行費用に、2021年度の科研費助成をあてることにしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フランスと日本における「ケアの脱家族化」の問題性について、とりわけケアの高度実践(高度実践看護)の発展に焦点をおいた調査が実施できた。ケアの高度実践は、個別地域内だけでなく、また地域間の連携=ネットワークの形成において重要な位置を占めていると言えるだろう。それは、ケアがジェンダーの境界に閉じ込められた状況を、ケアの行為主体自身が、問題化、脱構築していくことに関連している。このような問題性について、調査結果をとおして明らかにできたことは、評価できると言えるだろう。 そして、調査結果の分析を、英語版のテキストにとりまとめることが出来たことは、これからの国際的なレベルでの研究協力の発展に寄与するだろう。 とりわけ、今日のCOVID-19 の問題への医療者による対応の状況において、ケアの脱家族化の問題性が、いっそう顕在化したとも言えるのではないか。この問題性は、フランスにおいては、医療だけでなく、ひろくケアが、ニーズにたいする資源の関係として、P.モッセ、C.グルニエ(研究協力者)らによって、議論されてきたからである。他方、20世紀のケアから21世紀のケアへの転換において、病院中主義(hospitalo-centrisme)から、地域、および地域間のネットワークの転換が課題とされてきた。病院中心主義からのケアの組織の転換は、COVID-19 の問題への対応と軌を一にする。 言い換えれば、高齢社会における慢性疾患への対応だけでなく、あらたなニーズとケアの資源との関係の課題は、これまでの病院中心主義を超えて、地域、地域間の組織の課題となることが、フランスと日本との比較から明らかにされた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度においては、調査研究の完了をめざし、これまでの調査結果の分析について、補足調査とともに、より深化した考察を加えることをめざす。 社会学理論の視点からみるなら、調査結果の分析、考察は、ジェンダーの視点を見逃すことはできないだろう。病院中心主義は、「人間」を、健康・病気・死の三者の関係として、ケアよりキュア中心からみることと結びついてきた(M. フーコー)。そこでは、「近代」医療の優位が見いだされるが、高齢社会におけるポスト近代の「人間」においては、キュアからケアへの転換、キュアのケアへの統合が見いだされるだろう。そして、今後の研究の推進方策は、キュアとケアの分割よりは両者の統合とともに、ジェンダーの境界=性役割分業の問題化に焦点おくことにある。 このようなジェンダーの脱構築を基軸に、ケアの高度実践が、家族を超えて、地域、地域間の社会組織へと発展する可能性について、調査をとおして、高度実践の当事者の「声」(voice)として発見できたことは、ケアの社会組織論の展開に示唆を提供する。「声」の分析は、A.シュッツの現象学的社会学理論からすれば、社会的現実の構築、脱構築の多元性を明らかにすると言える。 2021年6月刊行予定の、フランスと日本の研究協力者の執筆による英語版の著書の構成は下記のようである。 第1章「さらなるケア」 第2章声か、さもなければ場からの離脱か 第3章高度実践看護師 第4章医療における新たなコンピタンシー
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度において、フランスの研究者の講演のための日本への招へい、また日本の研究者のフランスにおける調査研究の実施を計画していたが、COVID-19の影響により、海外渡航をともなう計画の実施が困難となったため、英文著書を、研究協力者による共著として執筆することをとおして、研究成果を集約することとした。それゆえ、海外渡航の旅費を、著書の刊行のための費用に振り替える。 英文著書は、電子書籍として刊行し、研究協力の深化と発展に寄与すると考えられる。出版社の選択においては、これまで国際的な研究交流において刊行の実績があると考えられる出版社を選択する。刊行の費用の見積もりは、英文校閲に50万円、組版などに50万円、計100万円を予定している。
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