研究課題/領域番号 |
18K02043
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
山北 輝裕 日本大学, 文理学部, 准教授 (50579109)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 野宿者 / ハウジング・ファースト |
研究実績の概要 |
本研究は日本の野宿状態の人々に対する「ハウジング・ファースト」支援の効果について、当事者の方への質的調査を通して明らかにすることを目的とする。ハウジング・ファーストの効果をめぐるエビデンスはおもにランダマイズ比較試験をもちいた量的調査が世界的に主流である。それに対して本研究は、当事者の方のライフヒストリーや、支援団体と出会うまでの経緯と現在のアパートでの地域生活の経験・困難をもとに、社会学的な質的調査から効果を明らかにすることが特徴である。本年度は支援を受けた当事者の方へのインタビューを行った。なかでもどのように夜回りや、炊き出しの場における相談活動と出会ったのか。アパート生活に移行するまでに、自立支援センターや無料低額宿泊所等の施設に入所したことがあるか。またそこでの生活はどのようなものであったか。なぜ退所したのか。 路上生活はどのような状況であったか。また野宿に至るまでの経緯などを聞き取った。そのうえで、一人の当事者の方の事例について論文化に向けた執筆作業に入った。また、ハウジング・ファーストの実践を文献収集によって研究していくなかで、海外ではハウジング・ファーストに対する批判が向けられていることも明らかになってきた。そのため、本研究では聞き取り調査の事例に理論的な考察を加えるために、ハウジング・ファーストに関する批判のレビュー、およびその批判の超克に向けた議論を、日本的な文脈を意識しながら行うことができないか模索している。このテーマについても論文化に向けた作業を行い始めた。今後も聞き取りを継続していく。また海外のハウジング・ファーストの実践の視察を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は当事者の方への聞き取りを行い、ハウジング・ファースト型の支援がどのようなものか、また支援を受けた方たちがどのように生活しているのかについて、おおまかに把握しつつ、調査協力者との関係構築につとめた。のべ約20回ほどのインタビューを行っている。当初の予定よりも回数(人数)は少ないが、理由は以下の2点である。(1)現場の方々との調整を最優先し、協力者の方に負担がかからないようにつとめたため。とくに体調がすぐれない、その時点で厳しい状況にある方などへのインタビューは、現場の支援者の方からの助言をえながら慎重にすすめたため。(2)調査の途中で出会った、1人の当事者の方が日本のハウジング・ファーストを考察するうえで重要と考え、論文化することに決め、その後その方のお話に集中して聞き取りを行ったため、である。なお、この論考はほぼ完成しており、当事者の方からも承諾を得ることができた。そのため、来年度の学会で報告したうえで、投稿予定である。なお他の当事者の方の聞き取りに関しても、日本型のハウジング・ファーストの特徴や、日本の野宿者対策の限界などが鮮明になる見通しを得た。またハウジング・ファーストに関する社会学的考察に向けて、ハウジング・ファースト批判の論考を収集し検討を行ってきたが、この作業も順調に進んでいる。この検討作業において、ハウジング・ファーストとネオリベラリズムとの共振関係が、その批判の背後にあることが明らかになってきた。本年度末には論文化に向けた構成が決まり、来年度には投稿予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の変更はない。本年度は(1)聞き取りの継続(2)海外視察、が主な計画である。(1)今後も当事者の方への聞き取りや、支援者の方への聞き取りを継続していく。アパート生活と過去の施設生活との差異はどのようものか。支援団体のケアがアパート生活にどのように影響しているか。またアパート生活移行後も残る困難とはどのようなものか。こうした問いを意識しながら、日本型ハウジング・ファーストが大切にしている支援哲学(フィデリティ)を現場の実践からうかびあがらせたい。(2)また本年度は海外のハウジング・ファーストの実践の視察を予定している。予定では、フランス・ベルギー・フィンランド・カナダ・オーストラリアなどのうちいずれか(あるいは複数)を予算や当該国の状況などをふまえて選定してく。ハウジング・ファーストに関する批判的論考などで、当事者の方が地域に移行した後の社会統合などの課題は世界的にもかかげられている。そのため、各国でどのような日常実践が行われているのか、現在は関心がある。このような視察と海外文献の収集検討・論文化の作業、および日本の当事者の方の聞き取りを比較検討することで、より日本型ハウンジング・ファーストの支援実践の特徴が明らかになると考えている。なお本年度のはじめは、昨年度に執筆している論考の学会報告に向けた準備や、ハウジング・ファースト批判をレビューする論考の執筆に集中したい。これらの成果へのリアクションをもとに、研究計画を見直すなどしながら、リフレクシブにすすめていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
4521円が次年度使用となった。インタビュー当該地域までの交通費は約2000円であり、インタビュー回数に換算すれば2回分ほどが余ったことになる。当該予算を本年度中に、文献購入などにあてることも考えたが、翌年度のインタビューの回数を増やし、その交通費に使用する予定である。なお本年度の終盤は、論文化に向けた作業に入ってしまったため、インタビューのペースをおとした。そのため次年度使用が発生した。
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