本研究は日本の野宿状態の人々に対する「ハウジング・ファースト」支援の効果について、当事者の方への質的調査を通して明らかにすることを目的としている。ハウジング・ファーストの効果をめぐるエビデンスはおもにランダマイズ比較試験をもちいた量的調査が世界的に主流である。それに対して本研究は、当事者のライフヒストリーや、支援団体と出会うまでの経緯と現在のアパートでの地域生活の経験・困難をもとに、社会学的な質的調査から効果を明らかにすることが特徴である。本研究では、東京都の民間の野宿者支援団体が進めている「ハウジング・ファースト」支援、およびその支援を受けた人々がアパート移行後の生活をどのようにおくっているかを明らかにした。なかでもアパート生活と過去の施設生活との差異はどのようものか。支援団体のケアがアパート生活にどのように影響しているか。またアパート生活移行後も残る困難とはどのようなものかを明らかにした。また、アパート生活に移行するまでに、自立支援センターや無料低額宿泊所等の施設に入所したことがあるか。またそこでの生活はどのようなものであったか。なぜ退所したのか。路上生活はどのような状況であったか。また野宿に至るまでの経緯など、30名ちかくにライフヒストリーを聞き取った。こうした聞き取りを行いつつ、東京都の野宿者対策を検討するとともに、「ハウジング・ファースト」とネオリベラリズムの共振問題を理論的に考察し、そのうえで、共振をどのように回避することができるのか、その方途を東京の民間の支援団体の実践を想定しつつ構想した。海外視察は新型コロナ・ウィルス蔓延のため中止した。そこで上記の問題関心のもと、本研究過年度の実績論文を改稿し、英語の論文として投稿し、掲載された。
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