研究課題/領域番号 |
18K02045
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
佐藤 成基 法政大学, 社会学部, 教授 (90292466)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 国籍法 / 国民概念 / 帰化 / 重国籍 / エスノ文化的 / コミュニタリアン / リベラル |
研究実績の概要 |
今年度は2000年の国籍法改定以後の国籍政策の流れを全体として概観し,いくつかの主要な争点が明らかになった。第一は出生地主義によって重国籍者となった外国人の子供の「選択義務」が2014年に廃止されるまでの経緯である。第二は,2008年に統一帰化テストが導入されるまでの,帰化条件の審査に関する論争である。第三は帰化宣誓式の実施とそこで表明された行政府の帰化に対する姿勢の変化である。第四は,2014年に「選択義務」が廃止されて以後の重国籍をめぐる論争である。これらの諸問題を本年は,既存文献の検討および議会の議事録や新聞雑誌の記事の検索・精査を行いながら明らかにした。 その結果,2000年の出生地主義の導入によって外国人の国籍保有に対する門戸を開放した半面で,帰化政策を通じて国籍取得の要件を厳格化し,「国民になる」ための基準の明確化を行なっていることが明らかになった。また,そこでCDUの一部やCSUの政治家のなかからは「選択義務」の復活を求める声が出るなど,国籍の「開放」(特に重国籍の容認)に対する抵抗も現れている。しかし彼らは,必ずしも旧来のドイツの「エスノ文化的」な国民観に回帰しようとしているわけではなく,自由と民主主義を基本とするドイツの憲法や価値規範への強いコミットメントを求める「シヴィック」でかつ「コミュニタリアン」的な国民観を表明していた。それは,移民の出自を持つ人々を平等な権利の下に包摂しようという「リベラル」な国民観をもつ勢力(社会民主党や緑の党などを中心とする)と対立する関係にあった。 また,近年台頭した右翼ポピュリスト政党AfDは,血統主義の復活と裁量帰化という1980年代の国籍法への回帰を求める主張を行なっている。今年度はAfDの国籍政策にも注目しながら,この政党が表明する反イスラム的「エスノ文化的」な志向の強い国民観についても検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,8月から9月にかけて2週間ベルリンに出張し,ベルリンの図書館で資料・文献の検索・収集・精査を行った。また,9月には日本社会学会での報告,10月には静岡県立大学での招待講演,また年度末にはドイツの国籍政策の近年の動向を日本と比較して検討した論文の依頼があり,それらの機会を利用しつつ研究を進めた。また,本題である国籍法の他に,近年台頭するAfDに代表される,反移民・反イスラムへの政治・世論の変化を追いつつ,このような動向と国籍政策との関係についても考察を深めた。
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今後の研究の推進方策 |
いくつかの論点について並行して研究を進める。 第一は,2005年ころから台頭している「イスラム嫌悪」や「イスラム批判」の動きと関連付けながら,2008年の帰化テスト導入にいたるまでの経緯を検討する。特にベーデン・ビュルテンベルク州で試みられた帰化ガイドラインやヘッセン州で検討された帰化テストの問題について,地元新聞での報道などを材料にして検討する。 第二は,「選択義務」廃止後の重国籍をめぐる論調である。これを1999年の国籍法改定論議の中で現れた重国籍批判と関連させながら検討する。 第三は,重国籍者に対する世論の変化である。重国籍者は現在400万人を越えると推定されていて,その数はさらに増えつつあるが,にもかかわらず重国籍への抵抗があるとすれば,それはいったい重国籍の何に対する抵抗なのかを考察していく。
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