研究課題/領域番号 |
18K02045
|
研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
佐藤 成基 法政大学, 社会学部, 教授 (90292466)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ドイツ / 国籍 / 重国籍 / 国民的自己理解 / ナショナル・アイデンティティ / シヴィック / コミュニタリアン |
研究実績の概要 |
2019年度は,重国籍問題を中心に資料を収集し,分析・考察を行った。 2000年に施行された新国籍法では,出生地主義によって出生時にドイツ国籍を得た両親とも外国人の子供は,23歳までに親の国籍かドイツ国籍かどれか1つを選ぶことを求められていた。つまり,重国籍は年齢制限付きでのみ認められていたのである。しかし,2014年に改定された国籍法により,彼らの国籍選択義務は廃止され,生涯重国籍でいることが可能となった。しかしながら,その後もドイツ政府は「重国籍は原則回避されるべき」という立場を維持し続け,帰化した者には原則単一国籍を求めたのである。ところが,すでに1990年代から,外国籍を放棄することが困難な者には例外として重国籍を認めることとされており,その規定は維持されたばかりでなく,その実際上の適用の割合は増え続けた。 このようにドイツでは,様々な法的規程によって重国籍が認められ,重国籍者も増え続けている。にもかかわらずドイツ政府は依然として単一国籍の原則をとり続けている。今年度の研究は,このようなドイツにおける重国籍制度の現実と原則の乖離について,その現状を明らかにした。またそれに加え,なぜドイツ政府は「重国籍回避」の原則を維持し続けているのかについて考察した。 その結果として,そこにはドイツ社会の多数派(特に中道より右の政治的立場を持つ人々)の間で共有されている国民としての自己理解(ナショナル・アイデンティティ)が重要な役割を果たしているのではないかという仮説を立て,それをメディアや議会での政治家の発言を材料にしながら検討した。中道より右に位置するCDU,CSU,FDPの政治家によって表明されている国民的自己理解は,決して「エスニック」なものではなくむしろ「シヴィック」であるが,「リベラル」ではなく「コミュニタリアン」なものであることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は重国籍の問題を集中的に検討した。たしかに2014年以後,国籍法がドイツ社会で問題にされるばあい,重国籍がその中心の争点になってはいる。特に,2016年から2017年にかけてのトルコでのエルドアンの「独裁化」と,エルドアン政権の欧州在住トルコ人社会への政治的介入により,トルコ系住民のドイツ社会への「忠誠心」が盛んに問題にされ,その関連で彼らの重国籍も争点化された。また,重国籍の問題は1999年の国籍法改定の時以来,ドイツ社会において政治的争点となってきた問題でもある。 そこで2019年度は,戦後ドイツ連邦共和国の重国籍に対する政策を概観し,1990年代以後の政治化の経緯を明らかにしながら,現在における重国籍問題の認識のされ方について検討し,「重国籍に抵抗するドイツ ー「国民の自己理解」との関係から見た文化社会学的考察」を学内の雑誌である『社会志林』上で公刊した。 しかし2019年度の研究はやや重国籍の問題に偏りすぎた感は否めない。2020年度は,移民や難民の統合問題を視野に入れ,より広い視点から,2000年国籍法改定後20年間における国籍と国民的自己理解(アイデンティティ)の関連について検討を加えたい。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる2020年度は国籍問題を最近のドイツ社会における国民的自己理解(アイデンティティ)の変容と関連づけて分析したい。 分析の枠組みは,2019年度の研究成果である「重国籍に抵抗するドイツ ー「国民の自己理解」との関係から見た文化社会学的考察」ですでに概要を論じているが,「シヴィック・リベラル/シヴィック・コミュニタリアン/エスノ伝統主義/エスノ血統主義」の四項図式を用いて,現在のドイツ社会における国民的自己理解のパターンの布置状況と関連づけながら,国籍に対する姿勢,その政治的表明の競合の様相を,メディアや議会での論争を題材にしながら明らかにして行きたい。 2020度は,重国籍問題に偏らず,2000年代の帰化テストや帰化手続きの厳格化についてもさらに考察を深め,ドイツの国籍制度と国籍政策の変遷を,国民的自己理解の概念との関係性から文化社会学的に分析した研究成果をまとめ,2021年度に単著として公刊できるように準備を進めたい。 なお,2020年度はコロナ感染状況から,夏のドイツでの資料収集が可能かどうか危ぶまれる。その点,今後慎重に検討したい。
|