研究課題/領域番号 |
18K02045
|
研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
佐藤 成基 法政大学, 社会学部, 教授 (90292466)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ドイツ / 国籍 / ナショナル・アイデンティティ / 国民国家 / 移民 |
研究実績の概要 |
コロナ禍の影響で,2020年度夏のドイツ渡航も実現できなかった。そのため,予定通りの進展が見られず,2021年度に期間延長することにした。 研究内容としては,ドイツの現在の国籍政策をめぐる対立が,「シヴィック・リベラル」と「シヴィック・コミュニタリアン」,また「エスノ伝統主義」と「エスノ血統主義」という2つの対立軸にそって進展しているという仮説について引き続き検討を行った。 2020年度の研究実績としては,7月に公刊された在日法律家協会の会報『エトからデュテ』第3号に,柳赫秀氏(神奈川大学),佐々木てる氏(青森公立大学),遠藤正敬氏(早稲田大学),殷勇基氏(弁護士)との座談会の記録が「出生地主義の拡大と複数国籍の承認について」と題して公表された。そこで,ドイツの現在の国籍政策について日本と比較しながら議論を行った。血統主義をとる日本の国籍法の将来についても議論の対象となったが,そこで私は,確かに国籍法は全面的血統主義に基づいているが,日本のネーション観念はむしろ「エスノ伝統主義」的な側面が強く,日本の文化的伝統に適応する外国出資者の数が多くなってくれば,比較的容易に血統主義から脱却できる可能性もあるのではないかという考えを述べた。 そのほか,2021年1月に開かれた武田里子氏主催の「複数国籍研究会」の第14回研究会(zoom開催)で「ドイツにおける重国籍-「現実」と「原則」の乖離―」というタイトルで報告した。参加者にはハーフの人,国際結婚をしている人,弁護士などが中心で,研究者の方は少数だったが,参加者の実体験や生活感覚に沿った議論が交わされ,大変に有意義だった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度までは順調に研究が進み,最近20年間のドイツの国籍政策とナショナル・アイデンティティの関連について一定の仮説を立て,それを検証する段階までは進んだ。その成果の一部が,2020年3月に公刊した「重国籍に抵抗するドイツ -「国民の自己理解」との関係からみた文化社会学的考察―」(『社会志林』66巻4号)で公表した。そこでは,「シヴィック/エスニック」という従来のネーション研究の対抗図式がもはや有効な説明力を持たないことを明らかにした。ドイツの国籍政策をめぐる政治的・思想的対立は,同じ「シヴィック」なネーション観念のなかで「リベラル」(多様性や個人の自由を重視)か「コミュニタリアン」(社会の共通価値へのコミットメントを重視)かを軸とし,また同じ「エスニック」な観念においては「エスノ伝統主義」(マジョリティ文化の伝統を重視)か「エスノ血統主義」(血統的純粋性を重視)かを軸として展開していることがわかった。 しかし2020年度はコロナ禍の影響で夏に予定していたドイツでの資料収集が実現できず,研究が思うように進まなかった。そのため,もう1年研究期間を延長することにした。
|
今後の研究の推進方策 |
今年の計画は,ドイツに渡航しベルリンの図書館で資料を収集することを中心としている。しかし,コロナ感染状況がどの程度改善するかで大きく異なってくるが,現在の時点では2022年3月に渡航を予定している。渡航が実現した場合は,大衆紙『ビルト』の記事を中心に,2000年以降のドイツの国籍政策を含む移民統合の問題とドイツ人観念の表象のされ方について検討する。また,図書館がオンライン上で閲覧可能な資料にアクセスできるようになったので,利用登録をして資料収集することも可能となった。この方法で可能な限り資料の収集を行いたい。 また,2021年は秋に総選挙が行われる予定だが,現在支持率を伸ばしている緑の党が帰化の簡易化を含む極めてリベラルな移民政策を主張している。また,経済自由主義政党の自由民主党(FDP)は,帰化政策については緑の党よりもリベラルな方針を打ち出している。現在のところ,今回の選挙戦の争点の中心はコロナ対策や環境政策にあるが,もし政権交代が起これば,再び国籍問題が政治的争点になってくる可能性もある。それについても注意を払っておきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度はコロナ感染の影響で,ドイツへの渡航ができなかった。そのため,渡航費および現地での資料収集に要する費用が使われなかった。そのため,次年度(2021年度)にその分の額を繰越すことにした。2021年度には3月に渡航を予定しているがいまだその実現可能性について確たることは言えない。いずれにせよ,ドイツの図書館でオンラインでアクセス可能な資料については,できうる限り利用する。
|