今年度は前年度に引き続き、複数国籍をめぐる論争と、ドイツの国民的自己理解との関係について検討した。 1999年に導入された、出生地原理でドイツ国籍を得た外国人の子供の国籍選択義務は2014年に緩和され,一定の条件で複数国籍が認められることになった。しかしその後、保守派の間で単一国籍の原則に即して国籍選択義務を復活させようという議論が起きている。CDU(キリスト教民主同盟)は2016年末の党大会で国籍選択義務復活を決議した。そこでは、移民の子供に「単一にして不可分」のドイツ国家への帰属意志を求めようという考え方が前提にされている。その一方で、SPD(社会民主党)、緑の党、左翼党などの左派勢力は、複数国籍を全面的に容認し、移民・難民が祖国とのつながりを維持したままドイツ国籍を取得することを可能にすべきだという主張を打ち出している。しかし、どちらも「血統」に基づく「エスニック」な国民理解からは脱している点では一致しており、ドイツ社会の規範や価値へのコミットメントや、言語や文化への適合をどの程度求めるかの違いが対立点になっている。現在のドイツにおいて、血統に基づく「エスニック」な国民理解への回帰を求めるのは急進右翼勢力のみである。このような勢力の布置状況を、この研究では「シヴィック-リベラル」「シヴィックーコミュニタリアン」「エスノ伝統主義」「エスノ血統主義」の四類型を用いて明らかにした。 また、2017年以後、諸政党によって議論されるようになった「世代限定モデル」という新たな国籍制度を検討しながら、グローバルな人の移動が進む中、祖父母・曽祖父母の国籍を継承することの意味、さらには国家と個人との繋がりとは何かについても考察を行った。
|