研究課題/領域番号 |
18K02046
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
大塚 善樹 東京都市大学, 環境学部, 教授 (10320011)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / 遺伝子組換え / 農業食料 / 消費者 / 生活協同組合 / 科学コミュニケーション |
研究実績の概要 |
平成30年度の前半では,主に消費者団体および生協関連団体が主催したゲノム編集に関する活動やシンポジウムにおいて参与観察および質問紙調査を実施し,その結果について質的および量的な分析を行った.環境省のカルタヘナ法のゲノム編集生物への適用に関するパブリックコメントに関する質的な分析からは,「自然さ」が新たな争点となっていることが分かった.これは,20年前の遺伝子組換え生物(GMO)の規制に関する議論では見られなかったことである.むしろ20年前は,「自然さ」のような曖昧で文化的な概念は,非科学的であるとして退けられてきた.それが,GMOに対する消費者の拒否感から,慣行農作物との遺伝的距離を考慮したシスジェニック等を科学者が提示し,それがゲノム編集のSDN-1技術では「自然さ」として主張されるようになった. しかし,消費者団体および生協関連団体での質問紙調査では,消費者が考える「自然さ」は科学者が考える「自然さ」とは異なっていることが示唆された.また,育種技術の「安全さ」「自然さ」認知に対する順位付け質問を対象とした主成分分析からは,「安全さ」「自然さ」の認知と購買行動が相対的に独立しており,ゲノム編集の購買行動はGMOの購買行動の影響を強く受けることも分かった. さらに,平成30年度の後半では,ゲノム編集技術が農業と食料にもたらす変化が,上記のようなSDN-1技術だけではないことを考慮して,同技術の雑種強勢の固定化に対する応用に焦点を当て,科学者への聞き取り調査を開始した.この応用は,発展途上国における第2の緑の革命をもたらす可能性があり,ゲノム編集技術の社会的受容に影響を与えることが考えられる.今後は,これらの最新動向ふまえつつ,ゲノム編集に対するどのような「問い」が可能となるかを検討する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していたように,消費者団体および生協関連団体が主催・参加するイベント,ワークショップ,カフェ等における参与観察,またそれらの団体へのインタビュー調査を実施することができたほか,環境省パブリックコメントの分析,および消費者団体および生協関連団体が主催したイベント参加者への質問紙調査も行うことができた.質問紙調査の結果については,適切な統計分析を行うことができた.これらの結果については,論文にまとめているところである. しかし,有機農業団体や環境保護団体に対しての同様の調査は実施できていない.これは,ゲノム編集技術の新品種開発への技術革新が著しく進んでおり,当初は想定していなかったような雑種強勢の固定化,つまりF1ハイブリッド種子のクローン化の可能性が出てきたためである.現在,この新技術の可能性を見定めるべく,文献調査および科学者への聞き取り調査を実施している.
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今後の研究の推進方策 |
消費者団体および生協関連団体については,まだ会員に向けての学習会を行っている段階だが,今後,ゲノム編集減量の検出と表示に関する議論が起こってくると考えられる.それらの動向をフォローすることが必要である.また,厚生労働省のパブリックコメントも公開されたため,その分析を実施する. 雑種強勢の固定化については,文献調査と科学者へのヒアリングを継続するとともに,主要穀物のF1ハイブリッド種子の市場動向についても調査を行い,発展途上国における第2の緑の革命をもたらす可能性について議論できるような情報の収集と整理を行う.ここでは,植物遺伝学や植物育種学の専門家だけでなく,発展途上国の農業実践に知見を有する農業専門家,国際食糧研究機関,および文化人類学者からの情報収集が有益となると考える.その上で,有機農業団体や環境保護団体に対してどのような問いかけが可能かについて検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
参与観察およびインタビューの調査地が想定していたより近隣となったため,旅費が少なく済んだためである.その分の助成金を合わせることで,調査結果の分析や出版に使用する.
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備考 |
(講演)大塚善樹「ゲノム編集学習会―科学技術社会学の観点から―」生活クラブ連合会 2019年政策討論集会,2019年3月27日
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