研究課題/領域番号 |
18K02047
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
武田 尚子 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (30339527)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 鮫河橋 / 貧困地域 / 残飯業 |
研究実績の概要 |
明治期の東京市四谷区鮫河橋谷町を調査対象地とし、歴史社会学的視点から残飯業者の形成過程について分析・考察した。四谷区鮫河橋は明治期に三大貧民窟といわれた貧困地域の一つで、住民には残飯摂食の習慣があった。東京では残飯の主要な供給アクターの一つは軍隊であった。東京は全国他地域に比べて、多くの軍事施設と要員が配置されている軍事都市であった。各部隊の裁量で柔軟に使用できる蓄積金が必要で、残飯払い下げ代金は軍事予算の一部を補填する重要な財源であった。軍隊にとっても残飯売却による利益を確実に回収できることは重要で、入札のしくみも整い、残飯流通のしくみは安定的に持続するように制度化されたものであった。防衛研究所の資料から、残飯業は「業種として構造」化されていたものであることを確認できた。 「販売アクター」である残飯業者は明治30年代から追跡可能であった。一部の業者は長期にわたって営業していたことを確認できた。また、利権集団化した兆候も確認できた。軍需工場や軍施設の郊外展開に即して、残飯業者の分布も都市周辺部に展開していった。 以上のように、「供給アクター」「販売アクター」ともに長期間持続する安定的な営業形態が形成されていた。このような軍施設を核に特定の「業種の構造」が形成されていたという知見は、払い下げ品の処理ルートをめぐる「業種の構造」の有り様について関心を喚起するものである。「消費アクター」の「生活構造」に関しては高野岩三郎のデータに「消費アクター」である貧困層の住居に調理用具の竈がないという指摘がある点に着目し、燃料代の節約にもつながり、残飯摂食は貧困層にとっても経済的合理性のある行動様式であったと考察した。 残飯業という「業種の構造」が成立するには、残飯を購入する「消費アクター」が必要であり、残飯購入は「消費アクター」の生活様式の合理化と連動している側面があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ感染拡大により、国内・国外の研究出張の許可が停止されていたため、予定の研究出張が実行できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
貧困地域の変容過程、重層化の実態を詳細に調査し、国際比較のデータを整える予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染拡大により、研究出張の許可が停止され、国内・国外への研究出張ができなかったため。
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