研究課題/領域番号 |
18K02048
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
那須 壽 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40126438)
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研究分担者 |
草柳 千早 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40245361)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | アルフレッド・シュッツ / 社会科学方法論 / 知の社会学 / レリヴァンス |
研究実績の概要 |
本研究は、早稲田大学文学部社会学研究室に設置されている「アルフレッド・シュッツ文庫(The Alfred Schutz Archive Established in the Memory of Alfred and Ilse Schutz)」(以下「シュッツ文庫」と略記)の資料・設備を利用して、①シュッツ理論の形成と展開に関して内在的に検討し、さらに②シュッツ理論をめぐる今日の研究状況に関する調査に取り組むことを目的としている。 シュッツ文庫には、シュッツの未刊の草稿を含む遺稿や、彼と同時代の哲学者・社会科学者とのあいだで交わされた書簡、彼自身による蔵書への書き込みなど、シュッツ理論に関する第一級の資料が所蔵されている。現在これらの資料はすべてマイクロフィルムの状態で保管されているが、このままの状態で使用を続けると、傷や汚損が積み重なり、次第に資料が劣化していく危険性がある。実際、シュッツ文庫所蔵の資料すべてを丹念に確認したところ、汚損等によって資料の内容を確認しにくくなっている部分が確認された。そこで、今後さらに劣化が進行するのを防ぐため、資料の電子化を行なうことが急務であると判断した。現在までに、全体の四割程度の電子化が完了している。 また、資料の電子化と並行して、シュッツ理論に関する二次資料の収集・整理を行った。二次資料の収集にあたっては、日本国内で刊行された文献だけでなく、国外で刊行された資料、とりわけこれまで目配りが手薄であった南米、南欧(スペイン語圏、ポルトガル語圏、イタリア語圏)、ならびに北欧、東欧の二次資料についても、前者に関してはブエノスアイレス大学のカーロス・ベルべデール教授に、また後者に関しては、コンスタンツ大学のヨッヘン・ドレアー博士に協力を依頼し、集中的に収集した。現在、日本国内の二次資料と国外の二次資料を突き合わせながら比較・検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
資料保存と利便性の観点から、現在、マイクロフィルムで保存されている資料を電子化することが、本研究においてまず取り組まねばならない課題であると判断した。電子化を進めていくにあたって、マイクロフィルムをすべて確認してみたところ、目次データに多くの不備がみつかった。それらの不備は、当該資料が早稲田大学に移管される以前の編集作業において生じたものであり、目次データと実際の資料の内容を丹念に照合しないかぎり、発見することは不可能であった。新たに判明したこの事態に対処するため、資料を電子化するに先立って資料のすべてを点検したうえで分類・整理しなおす必要が生じた。数万頁に及ぶ資料の内容の再確認、整理の仕方の検討、目次の作成には、当初予定していたよりもはるかに膨大な時間とエネルギーが必要であった。これが、本研究の進捗状況は「やや遅れている」と言わざるを得なくなった理由である。しかし、マイクロフィルムに収録されている資料の内容を正確・精確に反映した目次が作成されたことにより、従来に比べて所蔵資料の利便性は、はるかに向上した。現在、シュッツの草稿、シュッツと同時代の哲学者・社会科学者とのあいだで交わされた書簡に関しては電子化が完了し、残りの資料についても目下、電子化を進めており、2019年度上半期にはすべての資料の電子化が完了する予定である。したがって、「やや遅れている」現在の進捗状況は、今年度中に十分、解消可能である。 シュッツ理論に関する二次資料に関しては、海外の研究者たちの協力を得ながら、すでに国内外の膨大な二次資料を収集し、現在も収集しつつある。それと同時に、収集された二次資料を整理しながらその内容を確認し、それらの比較・検討を行いつつある。収集した資料については、シュッツ理論に関心を寄せる研究に資すために、「シュッツ文庫」のホームページ上で閲覧できるよう準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、「シュッツ文庫」所蔵資料の四割程度の電子化が完了している。今後、まずなすべきことは、これまで同様に正確かつ精確な形で残りの資料の電子化を進めてそれを完成させることであるが、それに関しては、すでに電子化の形式などについて、研究代表者、研究分担者、研究協力者が検討を加えて共有した考え方に基づいて、専門業者と繰り返し詳細に打ち合わせを行っており、2019年度上半期には完成する見込みである。 資料の電子化が完了し次第、シュッツ理論の形成と展開に関する内在的な研究・検討を本格的に進めていく。すでにこれまで、研究代表者を中心に、研究分担者、研究協力者で検討会を数度、開催し、従来の研究で明らかにされてきた点と未だ解明されていない点とを選り分け、グループ内での共有を図ってきたが、今後は、各自の関心に従って電子化された資料に直接あたり、従来の研究との比較・検討を行う一方、適宜、研究会を開催し、各自の研究成果を持ち寄ってそれを共同討議に委ね、探究の視野を拡大し深化させていく。 2018年度中に収集した国内外の二次資料については、これまで研究分担者が中心になって整理を行ってきたが、今後は、研究代表者、研究分担者、研究協力者がそれぞれの関心に従ってそれらに当たりながら、従来の研究との比較・検討を行い、シュッツ理論のこれまでの、また今日の研究動向を把握し、シュッツ理論の今日的意義を明らかにしていく。この研究もまた、所蔵資料に関する研究同様、適宜、開催される研究会に持ち寄り各自の研究成果の視野の拡大と深化を図っていく。 収集した二次資料については、広く世界中の研究者の研究の一助となるように、「シュッツ文庫」のホームページ上でそのすべてが閲覧できるよう、研究協力者の協力を得ながら準備を進めているが、新たに収集された資料の一部は、すでにホームページ上で閲覧できるようになっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
電子化を進めていくにあたって、シュッツ文庫に所蔵されている資料の内容すべてを改めて確認したところ、所蔵資料に関する既存の目次データに多くの不備がみつかった。これらの不備は、当該資料がアメリカでマイクロフィルム化される際の編集作業の過程で生じたと考えられるが、こうした不備を残したままで電子化に踏み切ることは、単に利便性の面で難を抱えるだけでなく、本研究に引き続いて展開されていくであろうシュッツ理論に関する研究において、思わぬ損失を引き起こす危険性を孕んでいる。本研究におけるシュッツ理論の展開過程に関する研究と、今後、考えられ得る研究を堅実なものにするには、電子化を進めていく前に、内容の再確認とその整理を全体にわたって行うことが必須であると判断した。数万頁にも及ぶ資料の内容すべてを確認するために半年以上の時間を費やし、その結果、電子化に取り掛かる時期を当初の予定よりも先送りせざるを得なくなり、その結果、2018年度に計上していた予算の一部を2019年度に持ち越さざるを得なくなった。 ただ、今後の電子化のスケジュールについては、すでに業者と綿密な打ち合わせをして2019年度上半期には完成することになっており、したがって当初2018年度分として計上して積み残した予算は、2019年度上半期にはすべて費消する予定であり、それ以降の研究に関しては、当初の計画通りに進めることが十分に可能である。
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