近年、中国は、領土や資源開発をめぐって諸外国と安全保障上の問題を抱え、国内には社会的格差や民族問題、相次ぐ大規模災害と環境破壊など深刻な社会問題を数多く抱えている。これら社会的矛盾を解決するための新たな国家戦略として、「一帯一路」政策が実施されている。これは中国と西アジア諸国やEU諸国をつなぐ経済ベルト(一帯)としてシルクロード域を再編するとともに、中国沿岸部から東南アジア、アラビア半島、アフリカ東岸をつなぐ新たな海上シルクロード(一路)を建設しようとする一大国家プロジェクトである。 本研究では、国家プロジェクトの開発拠点として位置づけられ大きく変貌し続ける中国シルクロード域の開発環境史を明らかにすることを目的とする。環境問題と貧困問題が最も深刻な甘粛省を調査対象とし、史上最大規模の国家開発(西部開発、一帯一路政策)と環境再生事業を通じた地域社会の再編過程を社会学的に解明した。具体的には、中国西部で大規模に行われている農地建設(梯田建設)と地下水開発を事例に、農村開発による生活構造の変化を分析した。さらに、農村開発において災害対策や環境保全に配慮したツーリズムの推進など環境再生事業に着目した。梯田建設により土壌浸食を防ぎ、農村景観を新たな観光資源として開発し、エコツーリズムや流域保全を推進する動きを考察した。 本研究を通じて、グローバル化を背景に大きく転換しつつある現代中国における地域社会のダイナミズムを捉えることが可能になるだろう。中国の国家開発は、西アジアやEU諸国をも射程に収めた新たなシルクロード建設を目指しており、グローバル社会における新たな構造転換をもたらす可能性が高い。本研究は、新たな社会秩序の生成過程を解明することに貢献しうるものである。
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