研究課題/領域番号 |
18K02050
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研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
亘 明志 京都女子大学, 現代社会学部, 教授 (60158681)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 動員 / 統治性 / 総力戦 / 資源動員論 / アジア太平洋戦争 / 植民地 / 近代化 / 戦後補償 |
研究実績の概要 |
本研究は、日本の近代化過程を、動員(労務動員及び軍事動員)という観点から捉えなおし、戦争や植民地といった負の側面と経済発展や人権といった望ましいとされる側面とを、「統治性(M.フーコー)」の一貫した論理のもとに把握するという全体構想の中に位置づけられる。そのため、本研究では、第二次世界大戦(アジア太平洋戦争)期の、植民地朝鮮からの労務動員に焦点を当て、日本において犠牲になった朝鮮人の遺骨をめぐる諸問題を中心に、歴史社会学的方法及び聞き取り調査等によってその人的・物的・文化的資源動員を総合的に把握するとともに、総力戦下の植民地動員計画の資源動員論的分析を行うことを目指す。もって日本の近代化過程における統治合理性を解明するための「動員理論」を構築することを目的とする。2018年度の研究経過は以下の通りである。 ①植民地動員の実態解明については、社会学的研究はほとんど存在しないため、歴史学などの研究成果や民間での資料発掘などを参照し、社会学的問題関心からそれらの資料解読を行った。また、韓国における研究成果も可能な限り参照するようにした。これらの同時代的先行研究の解読作業と並行して、実態解明のための聞き取り調査および現地調査を行った(沖縄、長崎、岡山、東京、神奈川)。 ②動員計画については、1)「(植民地動員を含む)国家総動員計画はどのように索敵されたか、2)「総力戦体制」下での動員組織(機構)の形成とその整備、3)動員法の体系化とその施行を通して動員はどのようになされたか、といった点を明らかにするために、行政資料等を探索したり、各地に残された資料を収集したりするよう努めた。また、小林啓治『総力戦体制の正体』(柏書房)のシンポジウム形式の書評研究会を京都女子大学において開催した。 ③これらの研究作業を踏まえて、現在、「動員モデル」構築と資源動員論的分析の可能性を探る論考を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
沖縄や長崎の戦争遺跡の調査を行ったことにより、新しい発見があり、当初の予定よりも研究が進展した反面、理論モデルの構築についてはやや遅れているため、全体としてはおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策として、①植民地動員の実態解明、②総力戦と動員計画、③近代化モデルとしての「動員モデル」の構築の3点について述べる。 ①植民地動員の実態解明について、被動員労働者から直接聞き取りを行うことは、長期間の経過により、当事者が死亡するか高齢になっているため、困難な状況になっている。そこで、1)韓国の行政組織や民間の戦後補償運動団体、日本において遺骨返還運動を行っている民間運動団体や被動員労働者の名簿を収集している団体などと連携を取りつつ実態解明につながる資料を収集する。2)企業資料や行政資料、特高警察資料などに基づいて行われている歴史学などの先行研究を参照しつつ、必要があれば原資料にあたることにより実態解明を行う。 ②総力戦と動員計画については、行政資料法律資料を中心に整理分析を行う。第一次大戦直後から陸軍の「総力戦」研究が始まっていたことから、戦時総動員体制以降だけではなく、植民地動員を含めた動力戦総動員の必要性の認識がどのようにして生じたのかを時代を遡って検討したい。 ③近代化モデルとしての「動員モデル」については、動員(=労働力の移動)が近代化の過程でどのような意味を持っていたのかを解明するとともに、動員、とりわけ植民地からの動員が合理的かつ効果的であったか否かを、「動員計画」と実態を照らし合わせつつ、「資源動員論:などの観点から検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度中に行う予定であった聞き取り調査、戦跡調査、資料調査のいくつかが、諸般の事情から2019年度に行うことになったため。
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