本研究では、ユーラシア地域において東アジア社会(日本、韓国、中国、台湾)と東ヨーロッパ諸国(ロシア、ウクライナ、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア)、そしてトルコを事例に、家族変動と個人化に関する社会学的な議論と理論を比較している。本研究は、初年度である2018年度とその後の年度(2019~2022年度)に行った作業に基づき、最終年度である2023年度においては以下の研究を行った。 まず第一に、東アジア地域と東欧地域の家族研究を対照しながら、両者の異同を明らかにする作業を進めた。特に、東アジア地域における家族研究の多様性と共通性について検討した。この作業において、家族研究における問題提起や学者集団の内部構造に焦点を当て、中国における家族研究の日本や韓国と異なる独自性について新たな理解を得た。次に、両地域の研究結果を西洋中心の社会学的な議論と比較し、その違いと類似点について検討した。特に、家族と個人化に関する西洋社会学の主流理論を再検討したことで、家族の変容と個人化に関する学術界の理解や認識の違いについて深く掘り下げた。この作業との関りで、特定の学者集団が在住する社会・地域における支配的なイデオロギー的資源に焦点を当て、今年度の8月にハンガリーでフィールドワーク(資料収集や聞き取り調査)を行い、社会的環境と家族研究の関係性を探究した。これらの研究活動を「多元的近代」研究に結びつけた一方で、各国・地域の学者集団の閉鎖性や開放性の観点から、家族の変容と個人化に関する共通した社会学的な言語の形成可能性について検討した。この作業においては、家族研究に関する諸概念の表面的な定義に関して言えば、国際的に共通した言語の形成が可能であるが、その背後にある意味や仮説の面では現時点ではその可能性はむしろ低いと指摘した。
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