最終年度は2件のインタビューを行なった。1970年代に学生だった1名と、80年代初めに学生だった1名である。前者からは、70年代半ばの組織内部の雰囲気、人間関係、他団体との関係や、成育歴・家庭的背景と民族運動のかかわりなどを聞き取った。後者は直接的には研究対象としている年代ではなかったが、1960年代から70年代の組織的風土が後に与えた影響や、人間関係が組織の方針に与えた影響を聞き取った。聞き取り結果は文字に起こして記録として残した。 また、新たに入手した資料のリスト化、精読・分析を進めた。各大学の活動拠点が発行している冊子等から細かな実践や運動を年表化した。 理論研究について、昨年に引き続き現代的人種主義および複合的な差別について関連の文献を調査し、マイノリティ集団に属する個人に与える差別の影響を探った。また、これに合わせて収集した資料のうち、女性たちの経験を拾い出して70年代初頭から「二重の差別」として家父長制と民族差別の二つの差別を受ける存在として自分たちを位置付けている様子を記録した。 研究期間全体を通じて、三つのことを明らかにした。第一に、1960年代の在日朝鮮人学生が直面していた有形無形の差別とその中でのアイデンティティ形成プロセスである。第二に、韓国を自らの「祖国」として位置付ける際に具体的な経験やリソースがあったことである。第三に、日常活動や対外行動などの活動の実態をかなりの程度把握することができた。これらを総じて、対象団体の運動史と合わせて60~70年代の在日朝鮮人の歴史を立体的に記述し、「在日韓国人・朝鮮人二世にとって祖国とは何か」という問いの答えに近づくことができた。
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