研究課題/領域番号 |
18K02056
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研究機関 | 九州保健福祉大学 |
研究代表者 |
加藤 謙介 九州保健福祉大学, 社会福祉学部, 准教授 (30423099)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 減災 / 人とペットの災害対策 / コミュニティ / ナラティヴ / 平成28年熊本地震 |
研究実績の概要 |
2019年度は、熊本地震被災地でのフィールドワーク、及び、被災者らとの恊働的実践を継続した。2019年度における主な研究実績は以下の3点である。 (1)フィールドワークの過程の中で、災害サイクル移行ならびに被災地復興の進展に伴い、仮設団地コミュニティでの急速な人口減少が進んだ。その結果、ペット問題を含め、被災後の生活課題に取り組むための「共助」が困難になる事態さえもたらされるような、コミュニティの縮退が生じていることが見出された。 (2)熊本地震発生から4年間にわたる「人とペットの減災」の経緯を、「発災直後」「避難所コミュニティ」「仮設団地コミュニティ」の時期に区分し、各時期の減災の課題を、「時間の経過」「コミュニティの特徴」の2点から抽出した。この論考は学術論文としてまとめ、「社会医療研究」20号に投稿し、受理された(現在、印刷中)。 (3)被災者-ペットの個別の関係の特徴について、1人の高齢女性を対象に、被災後の生活とペットとの関係、ペットの死別後の言動等を、フィールドワークおよびインタビュー調査を踏まえて検討した。その結果、ペットは飼い主にとって、被災後の生活目標を設定し、文字通りの生きがいとしての役割を果たす「生を紡ぐコンパニオン」としての意義があることが見出された。また、被災者自身のオルタナティヴ・ストーリーを聴き取るための「ナラティヴ・コミュニティ」が必要となることが示唆された。この論考は学術論文としてまとめ、「災害と共生」4巻1号に投稿した(現在、査読中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
筆者と研究フィールド・研究協力者との関係は良好であり、2019年度は、前述したような研究成果をまとめることができた。しかし、所属部署の改組など本務校での想定外の業務が発生したため、熊本地震被災地以外での調査を予定通り進めることができなかった。この点については、2020年度以降に改めて調査を進める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度末より世界的な流行となった新型コロナウイルスの感染拡大防止を受け、隣県である熊本地震被災地にさえ訪問が困難な状況が続いている。調査研究の進捗は、パンデミックの収束状況によって多大なる影響を被ることが予想されるが、現時点では、以下の2点の推進方策を検討している。 (1)可能な範囲でのフィールドワークの継続 2020年度は、熊本地震被災地を中心に、可能な範囲でのフィールドワークを継続する。特に、災害公営住宅への転居など、被災地コミュニティの再編が進む中、「人とペットの減災」を支えるコミュニティにどのような変容が生じるのか、引き続き検討を試みる。 (2)「人とペットの減災」に資するコミュニティの特徴の理論化 これまでの先行研究および本研究での調査結果から、復興過程において被災地コミュニティそのものが経時的に変容していくことが示されている。また、長期にわたる被災生活の中で、住民の転出やペットの死別など、コミュニティ内での社会的関係そのものが縮退していく事態も見出されている。これらの状況を包括的に説明できるとともに、減災実践への貢献が可能であるような、「コミュニティ」概念の理論化を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は本務校での業務等の影響で調査の進捗が遅滞したため、執行できない予算が生じた。2020年度の研究計画には、新型コロナウイルス感染拡大から大きな影響を被ることが予想されるが、可能な範囲で調査を継続し、遅滞なく予算執行できるよう努める。
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