研究実績の概要 |
東日本大震災に関連した福島第一原子力発電所事故(以下,原発災害)により過去に例のない長期に渡る広域避難を余儀なくされた住民の生活再建に至るまでに抱いた気持ちとその変化を明らかにすることで,復興支援の示唆となると考えられる。そこで今回,原発災害による広域避難を終えた住民の気持ちとその変化について明らかにすることを目的に研究を行った。 〈方法〉震災前は福島県A町に居住し,原発災害により広域避難を終えた5名の語りから,ナラティブ分析を行った。 〈結果〉原発災害により被災し広域避難を終えた住民は,発災当初より【発災当初の混乱による気疲れ】,【広域避難時の給油の困難さから生じた複雑な気持ち】,【不誠実な対応への怒り】,広域避難に伴う【根も張れない浮草生活による気持ちの落ち着かなさ】を抱いたが,その後は,対象者自身が選んだ広域避難先へ移動したことで居場所ができ,徐々に日常生活が取り戻されていったことで【生活の安定による気持ちの落ち着き】がみられると共に,元来持つ【前向きな性格】,【苦労を苦労と思わない精神】により【徐々に生じてきた意欲】から,【避難先に馴染もうとする努力】を行うようになっていた。さらに,継続して積極的に行動したことで【社会的役割を得たことによる充実感】や【人との交流から生まれた充足感】を得ていった。現在では【現状を受け入れたことで生まれた安らぎ】や【故郷へ帰還したことによる気安さ】から,【被災経験を糧にして生きる意欲】が生まれていた。 〈考察〉住民が生活再建に至るまでには,①生活環境が安定すること,②現在の状況を前向きに捉え,行動する意欲を持つこと,③人と交流することや社会的役割を獲得することが大切であることが示唆された。
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