研究課題/領域番号 |
18K02061
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
深井 英喜 三重大学, 人文学部, 教授 (10378276)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イギリス社会構造の転換 / 脱工業化 |
研究実績の概要 |
研究期間の初年である昨年度は、1990年代以降に焦点を当ててイギリスの労働市場の構造変化を、その資本蓄積構造の転換を踏まえつつ考察することをテーマに取り組んだ。ただし、対象期間については、昨年度の研究作業を進める中で80年代ごろからを含める必要があることを感じるようになり、時期を拡大する方向で修正した。 具体的な研究作業の進め方としては、昨年度は主に先行研究のサーベイに力点を置いて進めた。特に、Robert Rowthorn氏を中心に発表された一連の研究論文が大変参考になった。 Rowthorn氏等は、80年代以降のイギリスの脱工業化を進めた要因として、経済のグローバル化による工業化の進む発展途上国との競争圧力の高まりを指摘しつつ、脱工業化がイギリスの労働市場や地域経済に与えた影響のあり方については、基本的にサプライサイドに立った経済政策を展開してきた80年代以降の歴代イギリス政府の経済政策・産業政策の功罪の大きさを指摘している。すなわち、脱工業化にともなう衰退産業から新興産業への構造転換のなかで、多くの摩擦的失業が生じ、これがイギリスの福祉国家政策の転換を促す根拠のひとつとして指摘されることが多いが、このイギリスに見られた摩擦的失業はサプライサイドにもとづく経済政策・産業政策によって助長されていた、という主張である。 また、Rowrhorn氏等は、イギリス産業の構造変化を考察する上で、80年代以降のイギリスの国際収支の動向を注視しているが、この視点は昨年度当初の研究計画策定段階には視野に入れていなかった。この点についてはまだ十分に消化しきれていない感を持っているため、本年度の研究対象の項目に含めて取り組む予定である。 最後に、国内の先行研究については、櫻井幸男氏の『グローバリゼーション下のイギリス経済』の書評を作成するなかで、おおむねまとめることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の作業を通して、イギリスの社会構造の変化について資本蓄積構造・産業構造の視点から取り組まれたRowrthorn氏等による一連の研究を発見できたことは有益であった。今回の3か年計画の研究において、この課題がもっとも私自身の研究領域から遠いところに位置するため、研究の見通しを立てるうえで不安を感じていたところだからである。 一方で、社会構造の変化に関しては、今年度の研究でイギリスについて取り上げたのと同時期について、EUを単位として行われた研究が多くあることが分かった。Rowrthorn氏等の研究を土台に据えるにしても、EU研究の視点からの研究について加味する必要があるだろうと感じている。 ただし、昨年度は上記に述べた先行研究のサーベイの結果等を論文や研究ノートとしてまとめるところまで行けなかった。この点を踏まえて、自己評価として「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
早急に取り組みべき作業として、昨年度の先行研究のサーベイ結果について、論考としてまとめる作業を通して、自分自身の立ち位置を確定する作業を進めたい。特に、Rowrthorn氏等の研究において、イギリスの社会構造の転換によって増加した経済的非活動者の地域間の差異が重視されていた。そしてまた、政府の経済政策・産業政策(広い意味で福祉国家政策も含まれる)がこの地域間の差異のあり方に影響した、と指摘されている。昨年度の先行研究のサーベイをまとめる中で、Rowrthorn氏等のこの指摘に着目し、その検討を重点的に進めたいと考えている。 現時点では本研究課題の進め方について変更する必要性は感じておらず、上述の昨年度すすめた先行研究のサーベイを踏まえて、80年代以降のイギリスの社会構造の変化の下で福祉国家政策が経済的非活動者等の対象者の自立支援にどのような意味があったかについて、検討を進めていく。 特に本年度は、これまで行ってきた90年代初頭までのイギリスの福祉国家政策についての考察を、少なくともリーマンショックによる世界的な金融危機が生じた2008年ごろまで追加的に進めることを作業目標にする。イギリスの社会構造の転換について調べているなかで、2008年の金融危機が新たな大きな転換点になっているとの指摘を散見したため、本研究においてもこの時期を一つの基準点として進めていくことを考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
イギリスへの渡航を予算に組んでいたが、家族の事情で渡航を見送ったため、渡航費を中心とした予算を次年度に繰り越すことになった。 この分は、次年度のイギリスへの渡航で使用する計画である。
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