研究課題/領域番号 |
18K02061
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
深井 英喜 三重大学, 人文学部, 教授 (10378276)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イギリス福祉国家 / 共同体 / 社会構造の変化 |
研究実績の概要 |
昨年度から引き続き、コロナ禍の影響の終息が見られなかったため、イギリスで予定していた調査等が実施できず、大きな進展は得られなかった。 一方で、コロナ禍の下でも可能な国内研究事案を進める中で、福祉サービスの供給主体から規制機構へと福祉国家が変容しつつある、という議論を確認した。この議論は、社会経済構造の変容の中での福祉国家のあり方を評価するという本研究のテーマにとって、考察に加えるべき視点と思われた。 これを踏まえて2021年度は、イギリス福祉国家論における公共性や共同体をめぐる議論の概観を中心に進めた。主に福祉ミックスの議論潮流において、現在の福祉国家を考察する上での共同体の重要性が強く議論されていることが分かった。一方で、共同体を取り入れた福祉ミックス・モデルの議論では、サービスの供給主体やその程度を基準とするのでは不十分であることが指摘され、この議論に妥当性を感じたが、他方で新たに提示されている基準には疑問を感じる点もあった。しかし、福祉ミックスの議論に共同体の役割を入れる理論モデル構築の試みは、現在の人々の生活構造について考察する上で、多くの示唆を与えるものと感じられた。 2021年度に見た上記の研究は、日本国内の先行研究が中心である。2022年度の研究の方向性として、イギリスの福祉ミックスに関する研究の概観を進めて、これまで本研究で進めてきた社会経済構造の変化が、イギリスの現在社会の共同性にどのような影響を与えているのか、という点を考察する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
最大の理由は、予定していたイギリスでの聞き取り調査等がコロナ禍のために滞っていることにある。文献調査等への切り替えを試みるが、研究計画策定時において現地調査の必要性を感じた上での研究計画であったため、なかなか研究方法の転換の良いアイデアが浮かばなかった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の特例による期間の再々延長の申し込み時期と、2022年度からの新規の研究申請結果の公表の時期の関係で、2022年度は2つの研究課題を持つことになった。両研究に共通している関心領域は、現代の社会経済構造の変容が、人々の働き方や家族構造そして地域の互助機能を含めた人々の生活構造に及ぼした影響、という領域である。 本研究については、2022年度もイギリスでの調査の実施の可能性は低いと思われるため、上記の関心領域について、イギリスでの先行研究の概観を中心にして進めていくことを予定している。 具体的には、「混合経済」または「福祉ミックス」の観点から行われたイギリスの福祉国家研究を中心に概観し、特に福祉国家における共同体についての議論を整理することを目指す。その中で、本研究の前半に行ったBob Rowthorn等の構造変化についての研究との関連性を見出すことができれば、そこに新たな理論的研究の課題を見出すことを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査のためのイギリス渡航費分が残金として残った。 2022年度もコロナ禍の影響によって渡英が困難であることが危惧されるため、理論的研究へのシフトを検討している。これにともなって、基本文献等の購入を中心に行う予定である。また、これまでゆるやかな共同研究を進めてきたイギリスの研究者との関係を継続するために、コロナ禍による影響を考慮しつつ、当初の予定通りイギリスへの研究調査出張の機会を見極めたいと考えている。
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