現代の福祉国家の再編をめぐる議論において、社会的排除は主要なキーワードである。しかし、社会的排除概念の大きな特徴であり、また同時に課題点と呼ぶべき点は、現代資本主義社会における生活困窮を、個人がもつ属性に着目して個人的課題とする視点と、現代資本主義社会経済システムによって生み出される社会的課題とする視点の両方を持つことにある。本研究の課題は、現代の社会的排除が、現代の資本主義社会経済システムによって生み出されていることを考察することにあった。 現代の先進資本主義社会に見られる貧困問題の深化と不平等の拡大の要因として、経済のポスト工業化が指摘される。ポスト工業化論による現代の社会的排除についての議論には、2つの潮流がある。ひとつは、経済のポスト工業化によって労働における認知的判断能力の重要性が高まるなど技術革新が生じ、その結果としてポスト工業化の中で新たに生じる雇用機会から排除される人々が存在する、というものである。もう一つのポスト工業化論は、特に先進資本主義経済における技術革新の飽和にともなう有望な投資先の枯渇による慢性的な需要不足(一般的過剰供給経済)を指摘し、それに伴う経済の金融化を指摘する。経済の金融化によって、企業の分配行動が労働者に対する賃金から株主配当や自社株購入等の資本へ移行し、その結果、賃金が抑制される傾向が強まり、貧困および不平等の課題の深化をもたらしている、と主張する。またこの労働から資本への分配のシフトの構造を指摘する議論は、その表れのひとつとして、不安定就労形態の増加と雇用形態の多様化を指摘している。 本研究の一環としてイギリスにおいて行なった聞き取り調査では、特に地方地域でこの不安定雇用層が増加が見られ、そうした地域では住民が職業的アイデンティティを形成することができず、地域コミュニティの弱化が見られることが強調された。
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