研究課題/領域番号 |
18K02093
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
廣井 いずみ 奈良大学, 社会学部, 教授 (50512860)
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研究分担者 |
永井 智 立正大学, 心理学部, 教授 (20513170)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 非行少年 / 社会復帰支援 / 援助要請 / セルフスティグマ |
研究実績の概要 |
どのような社会的関係を経験していることが、援助要請行動の発現に影響を及ぼすのか、矯正施設経験者にインタビュー調査した結果、相互交流が有り、援助者とのサポ-ティブな関係を経験していることが援助要請行動の発現に影響を及ぼし、また本来援助者となる者との間で交流がない、あるいは被害を受ける経験をした場合に、援助要請行動の発現が抑制される関係性があることが、M-GTAの結果示された。ところがそのような社会的関係の如何にかかわらず、緊急時の支援を求めるために専門家への援助要請行動をとることがあることも示唆された。 上記の結果は、愛着関係が不十分である生育史と、その後の処遇や民間団体での支援を対比して、援助要請行動の発現に影響を及ぼしうる要因について比較したが、さらに援助要請行動に影響を及ぼしていると考えられる要因を検討するために、社会からの圧力、社会からの援助的な力を加味し、調査協力者がどのように選択し、行動したのか、援助要請行動を含む、状況への適応スタイルの変遷を分析している。 援助要請を行うこと自体が抑制因となり得るセルフスティグマを含んだ、援助要請に影響を与える要因について、少年院在院者に向けて実施するアンケート調査を計画しているが、それに先立ち、身近な者に対する援助要請のセルフスティグマ尺度が存在しないという課題があった。そのため、身近な他者に対する援助要請のセルフスティグマ尺度を構成し、信頼性・妥当性の確認を行った。 本研究では、援助要請の抑制要因だけでなく促進要因も明らかにし、支援論につなげたい計画がある。その足がかりにするために、少年院の教官を対象にし、少年が援助を求めやすいような教育上の配慮についてアンケート調査を行った。その結果、少年院の教官は、心の成長や支援を意図した様々なかかわりを行っていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
遅れている理由は、2点ある。1点目は、矯正施設経験者の援助要請行動に影響を及ぼす要因の全体像をつかむことの難しさゆえに、当初予定した分析方法に加えて、新たな調査や分析を加えたり、尺度開発の必要が生じたりし、それに手が取られた点である。 2点目は、感染症の拡大により、当初実施する予定であった民間の支援団体の支援者調査、及び元犯罪者への社会復帰支援に積極的に取り組んでいるオーストラリアでの支援団体での調査が実施できなかった点である。援助要請支援について、海外の支援方法から学べること、あるいは海外との比較により日本独自の支援方法を明らかにすることはできていない。
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今後の研究の推進方策 |
現在の感染症拡大状況の推移や、調査受入れ機関の状況などを見極めながら可能な範囲で、少年院での在院者を対象にしたアンケート調査、支援団体の支援者のインタビュー調査を実施する。分析の進め方としては、援助要請に影響を及ぼす、個人内要因としてのセルフスティグマと援助要請の関係、対支援者との関係では、informalな支援者とformalな支援者とを切り分けて援助要請に影響を及ぼす要因を検討することで、支援論につなげたい。 オーストラリアの支援団体での調査は、支援の組み立て方、他機関との連携の方法を中心に、渡航が可能になればインタビューで、渡航がむずかしい場合には文献調査とする。 量的調査においては今後、今回の調査で得られた身近な他者に対する援助要請のセルフスティグマや少年院の教官による関わりに関する知見をもとに、少年を対象に調査を行い援助要請の促進・抑制のメカニズムについて明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィールス感染症の拡大により、当初予定していたオーストラリアのティーンエイジャー対象の相談機関であるheadspaceと、犯罪者の社会復帰支援を行っているACSOでの調査が実施できなくなったため、次年度使用額が生じた。 感染症の状況が落ち着き、訪問することが可能になれば、当初の予定通りheadspaceとACSOでの調査を実施する。その場合の旅費、滞在費、通訳料などにあてる。 訪問がむずかしい状況が続くようであれば、規模を縮小して、文献調査で補う。
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