研究課題/領域番号 |
18K02110
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
田垣 正晋 大阪府立大学, 人間社会システム科学研究科, 教授 (30347512)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 障害者 / 障害者差別解消法 / 障害者差別解消協議会 / 障害者計画 / 質的研究 / 語り / 協働 / アクションリサーチ |
研究実績の概要 |
本年度は、障害者差別解消法を地方自治体において進める上での、多種多様な障害者が関与する意義とその方法を検討した。筆者は、研究倫理を十分に配慮した上で、(1)各自治体の会議のフィールドワーク、その議事録等の公的資料の分析、(2)障害者関連の活動をする方々に関する諸データの再分析、(3)左記2つを分析する上での理論の整理をそれぞれをおこなった。障害者福祉や地域福祉だけではなく、障害者心理学や文化心理学を取り入れた。 その結果、第1に、障害者差別解消法を展開するには、不当な差別的排除と合理的配慮の提供について、障害者(介助者や家族を含む)と事業者双方が一定の合意を見するための仕組みを考えねばならないことがわかった。障害(者)への理解がこの前提条件と見なされやすい。これ自体の有効だが、心の変化が望ましい行動に帰結するという立場がある。これにとらわれないアプローチも必要であり、前述の理論を使う。差別や合理的配慮に関する言説の整理も必要である。 第2に、差別解消協議会等、同法を進める仕組みは、障害者総合支援法と比較して、より多種多様な障害者が関与することが求められる。そこでの話し合いは、障害者の社会的アイデンティティの形成になるだろう。アイデンティティは、各障害者特有の方向と、インペアメントを超えた大同団結的なもの双方をもっていると思われる。 第3に、同法を進める上での高い個別性は不確実性ととらえることもできる。だが、それは文化心理学的な視点からすれば、否定的なこととはいえなさそうである。 上記の知見については、一部を学会発表するとともに、投稿論文の準備をしている。今後は、これまで収集した地方自治体の資料とのつきわせをおこない、上記の知見が実践的にどのように有効なのかを検討する必要がある。なお、上記の一部の自治体においては、自治体が実施する大規模な質問紙調査の設計や分析の助言をした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
順調な点は、質的研究、ナラティブ、意味といった理論面での整理は進んでいること、フィールドワークや先進事例の資料収集が進んでいることである。 課題は、これらの刊行ができていないこと、地方都市における展開が進んでいなさそうであるために、データ収集の方法の再検討をせねばならないことである。以上から上記のような区分と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
1.理論面の整理の進捗と、アメリカなど海外事例のうち参考になるものを探してみる。 2.データ収集は、障害者差別解消法に焦点化しすぎると、うまくいかないかもしれないので、調査の観点をやや広めてみる。個別インタビューの計画も再検討する。 3.同法に対して理解が必要な人々を一定程度グループ化し、質問紙調査をしてみることも検討する。 4.新型コロナウイルスの感染拡大を考慮しながら研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
フィールドワークを近距離で行い、また、新型コロナウイルス等により学会や調査の出張を延期したために、予定より旅費が下回り、次年度使用額が生じた。延期した調査や学会の出張は2020年度以降に行うことにする。
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備考 |
2019年7月に、本学にて、カールスルーエ教育大学(ドイツ)のメチールド・キーゲルマン教授らとともに質的調査におけるインタビュー手法の講演会や特別講義を行った。国内の他大学教員、学生や院生、対人援助職との取り組みである。今後、何らかの形で共同事業をすることを検討中である。
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