研究課題/領域番号 |
18K02113
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研究機関 | 日本医療大学 |
研究代表者 |
松本 真由美 日本医療大学, 保健医療学部, 教授 (20738984)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 精神に障害のある人々 / 政策決定過程 / 地方精神保健福祉審議会 / アドボカシー / オーストラリア |
研究実績の概要 |
本研究は精神に障害のある人々が政策決定過程に当事者委員として参画することの推進と、地域福祉コミュニティへの参加の実現を目的に計画されたものである。 2019年度は①これまで実施してきた都道府県・政令指定都市(以下、都道府県等)の地方精神保健福祉審議会の当事者委員および行政担当者への聞き取り調査の最終調査と、②前年度末に出向いたオーストラリア・ニューサウスウェールズ州(以下、NSW)の調査結果の分析、③これらを著書にまとめる作業を実施した。 ①についてはこれまで全国の67都道府県・政令指定都市のうち、参画する全31名の当事者委員中20名、行政担当者67名中47名と直接面談できたことにより、当事者委員からはその役割と意義についての示唆が得られた。また、行政担当者からは当事者委員の参画の有無と都道府県等の参画実現可能または不可能な事情について把握できた。②NSWの調査結果から、オーストラリアは精神科病院の万対病床数が日本の5分の1以下と少なく、入院中の患者の権利擁護の体制が保たれ、精神疾患の経験者の声を地域精神保健福祉システムの中に活かすしくみが整えられていることがわかった。③著書の中では、地方精神保健福祉審議会に参画する当事者委員を当事者活動とのつながり、行政担当者とのつながりの二軸をもとに4分類した。当事者活動を実践し、行政担当者とのつながりのある「関係良好型」の当事者委員は、当事者活動を熱心に行い、身近な仲間の声を代弁し、自分の意見を代表性のあるものとして自信をもって意見表明し、使命感を持って役割を果たす傾向があった。また、当事者委員の声を貴重なものとして、行政担当者が尊重し、可能な限り政策への反映を試みる都道府県等はあった。関係良好型となるには当事者委員と行政機関をつなぐなんらかの組織が関与することの重要性を見出すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度で一区切りつける予定であった全国の当事者委員・行政担当者への聞き取り調査は予定通り実施、終了し、これらをまとめることができた。 しかし、2019年度からは精神に障害のある人々が精神保健福祉コミュニティーの担い手側として参画が実現する地域を抽出し、詳細に調査する予定だったが、実現できなかった。その理由は、調査以前に当該地域の情報を十分に把握し、聞きとり調査対象者を絞り込むことに時間を要し、現在も下調べを継続中である。 その一方、下調べと同時並行で行っていたNSWの情報収集から、日本との違いを知ることができた。NSWは精神に障害のある人々を「Lived Experience People」と呼び、本研究の主テーマである精神保健に関わる行政機関の会議への参画は当たり前に実現され、行政機関も含めた一般就労、NGO団体での活動等に精神疾患経験者が参加し、かれらの意見が尊重されていた。そもそも精神疾患の診断から退院に至る過程が日本とは異なり、入院期間は平均17日である。入院形態は強制入院と任意入院のみで、日本の医療保護入院にあたるものがない。強制入院が継続される人にはトライビューナルという準司法機関が患者の権利を擁護する体制がある。できる限り地域にすみやかにもどれるようはたらきかけがなされ、その過程に精神疾患経験者の声が反映されていた。 次年度、日本の特定の地域を詳細に調査する予定であるが、NSW関連の情報と対比させながら、検討を進めることができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、詳細な調査を計画する地域の対象者を早急に絞り込み、調査を実施したい。当該地域は行政機関が精神保健福祉システムに当事者委員の声を取り入れることを様々な場面で実践している。そこに至るまでに尽力した行政担当者が存在し、ぜひ、その担当者からシステム構築までの歩みについて聞き取り調査を実施したい。また、行政の会議に参画する複数の当事者委員は政策提言活動を熱心に行っている。所属する当事者団体の活動が活発で、社会に向けても多くのメッセージを発している。 こうした、日本の中でも精神疾患の人々が地域の精神保健福祉システムに関与し、入院から地域移行、社会的包摂の様を行政側、また、関連する事業所も含め、実践しているところはまだ少数であると推測する。その実践の現状を示すことは精神保健福祉に関わる専門職、行政職、精神疾患経験者とその周囲の人々にとって、意味を持つと考えられる。これらを明らかにする際に、NSWの調査により、精神に障害のある人々のさまざまな権利が擁護されることの重要性に気づくに至ったことから、NSWとの比較も視野に入れ、特に、精神に障害のある人々の権利擁護のしくみがどのように構築され、その過程に精神疾患経験者がどう関与しているかについても調査することを検討している。 この権利擁護のしくみは今後、精神疾患経験者と行政機関や専門職をつなぐものとして発展することが予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度はほぼ予算額通りに執行できたが、支出費目「人件費・謝金」から聞き取り調査の文字起こし費用等を支出したため、予算枠外の出費となった。
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