本研究は地方行政に多様な民意を反映させるために設置されている地方精神保健福祉審議会への当事者委員の参画の推進と、精神に障害のある人々を含めた精神保健福祉システム構築の可能性を明らかにすることを目的とする。 前者の地方精神保健福祉審議会への当事者委員の参画の推進については、令和元年度に出版した著書で明らかにした。後者の精神に障害のある人々を含めた精神保健福祉システム構築の可能性については、モデル地区としてA地域を抽出し、令和2年度から現地調査および文献研究を進めた。A地域は精神科病院からの地域移行を県独自の取組として展開した結果、多くの退院者を生み出した点、A地域が全国に先駆け地域移行を円滑に推進できた要因、国の補助金事業終了後の進展を明らかにし、多職種協働の意義について示唆することができた。A地域の地域移行の特徴は、①複数のキーパーソンの存在、②知的に障害のある人々の地域移行を経て、精神に障害のある人々へと発展、③地域事業所、当事者団体、行政機関の良好な関係性、④コーディネーターや登録ピアサポーターらが、入院者の退院の意欲の喚起や地域生活体験への同行等、入院者に寄り添う支援を実現できた点である。 しかし、本来は長期入院を生まない精神保健福祉システムが必要であり、令和元年度に調査に出向いたオーストラリア・ニューサウスウェールズ州では非自発的入院者が長期入院化しないよう3ヶ月ごとに入院継続の必要性をチェックし、入院者の権利を擁護するトライビューナルのしくみがあることがわかった。令和4年度にトライビューナルと法的援助機関であるLegal Aid NSWで聞き取り調査を行い、非自発的入院をできるだけ避け、入院者の立場にたった権利擁護のしくみについて理解できた。トライビューナルのパネルには精神疾患の経験者が含まれ、精神保健福祉システムを健全に機能させるために貢献していることを把握できた。
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