研究課題/領域番号 |
18K02119
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
金子 光一 東洋大学, 社会学部, 教授 (30255153)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ロバート・オウエン / 福祉思想 / 相互負担義務 / 関係性 / 平等性 / 協同性 |
研究実績の概要 |
2018年度は、ロバート・オウエン(Robert Owen)の思想における相互義務と権利概念について、オウエン自身が執筆した出版物、講演記録、手記などを中心に検討した。研究の材料となる一次資料は、2018年8月9~17日の間、イギリスのロンドン大学UCL(University College London)の中央図書館およびLSE(London School of Economics)の図書館、ブリストル大学図書館などで入手した。また、「市民共和主義のシティズンシップ論」でいう「共同体の成員である市民の義務」について、アダム・スミス(Adam Smith)、J.S.ミル(John Stuart Mill)との比較検証が必要であるという問題意識から、それに関連する文献も入手した。それらに基づき検証した結果は、東洋大学福祉社会開発研究センター発行の『福祉社会開発研究』No.11に論文(「参加型支援に求められる思想に関する一考察 ―スミス、ミル、オウエンの思想を通じて―」)として掲載した。 1年間の研究の結果、スミスとミルの思想は、共に、社会で暮らす人間の存在を支える思想を基盤として展開されていたものであるが、スミスは人と人の「関係性」を重視しながら、個々人の感情に焦点化した議論をしているのに対して、ミルは、他者と対等な関係(「平等性」)をもって生活できる社会を目指す上で求められる感覚(「尊厳の感覚」)について論じていることが明らかになった。そしてオウエンは支配と保護を中核とする再分配の形態ではなく、「協同性」を中核として一定の権力が付随する互酬交換の形態にルーツをもつ論理を展開していることがわかった。そして三者から導かれた「関係性」「平等性」「協同性」は、今後住民参加型の支援を支える思想を検討する際に求められる理論的枠組みとなり得るという結論を導くことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
オウエンの能動的義務と地域社会における相互負担義務の検討はかなり進めることができたが、オウエンの権利概念についてはさらに深く検証する必要があったと反省している。やや遅れてしまっている理由は、科研申請時に全く予想していなかったことであるが、2018年5月27日、一般社団法人日本社会福祉学会の会長に推挙され、会長職に就いたことである。しかし、就任後約1年が経過し、会長業務の流れを概ね把握したので、2019年度は計画通り研究を進めることができると思っている。遅れてしまっているオウエンの権利概念に関する考察の部分も、2018年度に収集した史資料によって2019年度に実行可能である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、「市民的統合」モデルとの関係から、オウエンの思想の現代的有効性を明らかにする。そしてその結果を2019年9月21~22日に行われる一般社団法人日本社会福祉学会の秋季大会、および2019年11月9~10日に中国の中山大学で開催される国際会議(中国社会福祉学会大会)で報告する予定である。2019年度内に、地域社会で相互に支え合う社会を構築するために必要な要素を抽出し検証し、2020年度から政策構想の理論的枠組みの研究を行い、最終的な目標であるオウエンの思想に基づく政策提言につなげたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額(21,313円)が生じてしまったのは、購入したいと思っていたイギリスの文献が2018年度内に発行されず、その分が未使用となってしまったためである。
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