研究課題/領域番号 |
18K02119
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
金子 光一 東洋大学, 社会学部, 教授 (30255153)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ロバート・オウエン / 相互承認 / 協同社会論 / アダム・スミス / G.W.F.ヘーゲル / 人倫的共同体 |
研究実績の概要 |
地域社会で暮らす住民全体を一つの団体と捉え、住民一人ひとりに地域に対する帰属意識をこれまで以上にもたせると同時に、「アソシエーション」(association)としての地域社会に求められる方策を探るために、ロバート・オウエンの思想に関する研究は重要な意味をもつ。そして今日、福祉制度や支援ネットワークからこぼれてしまっている社会的つながりが弱い人たちには、「相互承認」(mutual recognition)の場を見つけられない人も多い。「相互承認」の場の構築には、市民としての責務を重視し、共通の価値・規範を身につけた住民の力と、人権が保障される社会環境が不可欠といわれている。 そこで2019年度は、オウエンの「協同社会論」に着目し、地域社会における「相互承認」の問題を解明する糸口を探究した。具体的には、アダム・スミスとG.W.F.ヘーゲルの理論的枠組みを用いて、オウエンの「協同社会論」における「相互承認」の場に関する思想の検討を行った。 考察の結果、オウエンは、真の自由が実現されるためには、平等が実現されていなければならず、そのためには、障害がある子どもたちには適切な支援を行い、高齢者には有利さと快適さを与えるような協同社会を構築しなければならないと考えていたことが判明した。またその一方で、オウエンは、個人の主体性と良心の自由を尊重しながら、人びとが団結して利害を一致させることを普遍的なものとして位置づけていた。そして自分に欠けているものを教育で身につけ、そのプロセスで相互承認が形成され、他者との関係を構築し、普遍的原理を倫理規範によって支える協同社会を構想していた。そしてそれは、相互扶助によって支えられた伝統的な共同体ではなく、人びとがそれぞれ倫理的な役割を果たす場、すなわち人倫的共同体としての協同社会であった。以上、大きく3つのことを実証的に分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ロバート・オウエンの「相互承認」の場に関する研究を行う上で、オウエンが執筆した出版物、講演の記録等の第一次史資料、日本および欧州諸国(主にイギリス)の政府文書(報告書、審議会議事録等)、学術研究書・論文等の収集作業は必須である。幸い2019年度、訪英しないと入手が困難だと思っていたイギリスの資料が、電子コレクション(The Making of the Modern World Parts Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)という形で日本で販売され、それを本務校の東洋大学白山キャンパス図書館が速やかに購入してくれたため、作業の効率化とコスト削減が図れた。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、オウエンの思想の現代的有効性に関する検討を行い、その研究成果を国際学会で報告し、それに基づいて学術論文を執筆する。2019年11月に開催された中国社会学社会福祉研究専門委員会第11回年次大会(於:広東省広州市・中山大学)で報告の機会を得たことで、海外の研究者と有効なネットワークを構築することができたため、そのネットワークを活用したいと考えている。また、地域のつながりに関する政策構想の理論的枠組みに関する検討を行い、提言作成に着手したいと考えている。さらに、これまでの3年間の研究成果を取りまとめて報告書を作成し、印刷刊行するとともに、WEB上で広く公開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じてしまったのは、今年度、訪英しないと入手が困難だと思っていたイギリスの資料が、電子コレクション(The Making of the Modern World Parts Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)という形で日本で販売され、それを本務校の東洋大学白山キャンパス図書館が速やかに購入してくれたためである。 翌年度分として請求した助成金と合わせるとやや高額になるが、国際学会での報告と報告書の発行等を計画しているので問題はないと思われる。しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、次年度中の国際学会への参加が難しくなることも考えられ、その場合はオンラインでの参加の可能性を追求したい。それに伴って当初予定していた予算執行ができなくなった場合は、残金を返金したいと考えている。
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