研究課題/領域番号 |
18K02130
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研究機関 | 静岡英和学院大学 |
研究代表者 |
高阪 悌雄 静岡英和学院大学, 人間社会学部, 教授 (40537338)
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研究分担者 |
立岩 真也 立命館大学, 先端総合学術研究科, 教授 (30222110)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 障害基礎年金 / 脳性マヒ者 / 厚生官僚 / 自立生活運動 / 1985年年金改正 / 国際障害者年 |
研究実績の概要 |
2018年度の成果として、立命館大学大学院先端総合学術研究科に博士論文「障害基礎年金制度の成立プロセスを探る -当事者運動と年金改革の接点-」を提出、審査に合格したことがあげられる。この博士論文では、国会議事録、国際障害者年関係の政府刊行物、障害者団体機関紙、故人となった官僚の評伝、官僚や障害当事者へのインタビュー等を行い、3つの側面から障害基礎年金の成立プロセスを明らかにした。 1つ目は当事者運動が障害基礎年金成立に影響を与えた側面についてである。脳性マヒ者を中心とした障害者団体と厚生省更生課長であった板山賢治の交渉,さらに,その結果作成された報告書が障害基礎年金に与えた影響について述べたこと,他にも厚生省との交渉を可能にした脳性マヒ者を中心とした障害者団体の柔軟な運動スタイルや,年金局長であった山口新一郎の障害基礎年金成立への貢献を明らかにした. 2つ目は保険の原則を超え無拠出と拠出を統合させた技術的な側面である。拠出制の障害年金受給のための資格期間を廃止することで,無拠出の障害基礎年金受給者との矛盾をなくし,障害基礎年金に拠出を行うことになる厚生年金等の審議委員でもあった障害者生活問題専門家会議委員への説得を行ったことを明らかにした。 3つ目は年金改正法案の国会成立のため複数アクターの利害関係調整に障害基礎年金が果たした役割について明らかにした国会対策としての側面である。これについては、1985年年金改正に対する複数のアクターの利害関係について非難回避戦略モデルに基づいて分析し,年金改正に反対するアクターへの代償政策として障害基礎年金が位置付けられることを明らかにした。この他にも介護保障や稼得能力の所得保障への反映等、先送りにされた当事者側からの要求も明確化した。 以上の研究成果については、2018年9月の日本社会福祉学会第66回秋季大会においても報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当事者運動の要求について、達成した要求と先送りされた要求をそれぞれ明らかにできた点で、研究は順調に推移していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
障害基礎年金の成立プロセスを明らかにしていく中で、介護保障の問題を所得保障に反映させることを主張した障害当事者が、所属していた障害当事者団体から解任され、官僚との話し合いの場に参加できなくなってしまった。こうした介護保障を求めた障害当事者の主張は、障害基礎年金成立後、どのように変遷していくのかを明らかにしていく。このように障害基礎年金成立過程で、取り残された介護保障運動のその後の変遷を探ることを通して、障害基礎年金の所得保障としての規範の問題について言及していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
障害基礎年金成立過程で取り残された介護保障という課題から、障害基礎年金の所得保障としての規範の問題を言及していくのは、今年度で達成するには時間的に難しかった。今後、介護保障を求めた当事者及び関係者へのインタビュー等を通して、障害基礎年金の障害者所得保障としての規範を判断することへとつなげていく。
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