「自立支援」「自己決定」など、現代の社会福祉援助では、「近代的個人」としての人間観が前提となっている。本研究は、そのような「近代的個人」としての自覚を、人々がいつ、どのようにして持つようになったのかを考察することを通して、日本社会が社会福祉を発展させるための基礎として求めた論理や価値を、先駆者らの実践と思想から明らかにしようとするものである。 2023年度においては、引き続きガントレットによる著述の精読および整理に時間を費やした。関係する団体の機関誌に寄稿されたものについて概ね把握し、その一部を目録としてまとめた。一方、トピックが多方面にわたる大衆雑誌での著述や対談については現在も作業を継続中である。また、『婦人新報』記事における批評内容とその変遷から、ガントレットが読者である人々どのようにとらえ、何を伝えようとしていたのかについて、年代ごとに分析し考察した。 他大学で行われる研究会への参加からも多くの学びを得た。 「キリスト教社会福祉の総合的研究―聖書、歴史、思想、実践―」(同志社大学人文科学研究所第2研究)では、後に社会福祉実践理論の土台となる竹内愛二のケースワーク論の中核となる論理について、「ヴィクトリア朝社会に見る周縁者と救済」(名古屋学院大学)では、新救貧法(英国)の先駆けとなったサウスウェル救貧院の設立の経緯についての知見を得ることができた。本研究が課題としている社会福祉実践の人間観がどこからきてどのように発展するのかを考察する際の物差しとして活かしたい。
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