研究課題/領域番号 |
18K02149
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研究機関 | 東北福祉大学 |
研究代表者 |
田中 尚 東北福祉大学, 総合福祉学部, 教授 (10305279)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 障害者・高齢者 / 入口支援 / 生活支援 / 再犯防止 / 権利擁護 / 地域支援システム / 司法と福祉の協働 / 地域共生 |
研究実績の概要 |
2018年度においては、被疑者・被告人段階にある障害者・高齢者の「入口支援」に関する先行研究論文、先行研究資料の収集とその内容の整理・分析を行った。また、障害者・高齢者への司法・福祉分野の研究動向を概観したうえで、「入口支援」の現状と課題に関する要点の整理を行った。そのうえで、予備的調査として、岩手県内の弁護士事務所、地域包括支援センター、生活困窮者自立支援事業所、障害者福祉サービス事業所等を運営する社会福祉法人、計555か所を対象に、障害者・高齢者の「入口支援」の実態調査を実施した。調査票の回収数は298件で、回収率は53.7%であった。「入口支援」に関わる相談等については、全体の12.1%の事業所で対応がなされた経験を有するが、その対応については単発的で、継続・体系的なものではなく、地域の中でシステムとして支援を展開する状況には至っていなかった。すべての事業所から、事業所・関係機関との連携、そして障害者・高齢者の支援に対する協働を展開していくうえでのきっかけを模索していることが明らかになった。先行研究からも、モデル事業をきっかけに一部の自治体においては、「入口支援」の展開が地域システムとして動き始めているが、それらを推進していくための法整備をはじめ、司法関連機関と福祉事業所・機関との地域連携システムは未整備の状況である自治体が多数である。先行研究からは、積極的な司法と福祉の連携を提起する「入口支援」の提案なども見られるが、福祉関係者の「入口支援」の問題に対する認識は開発されていないところがある。しかし、予備調査からは、一様に「入口支援」の問題を障害者・高齢者の生活支援を通しての積極的な権利擁護の視点、再犯防止としての機能もさることながら、福祉的支援や関与による予防的な司法福祉の視点に対する認識が広がってきていることを確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の初年度において計画していた課題に関して、概ね予定どおりに取り組むことができたと考える。まず、国内の先行研究及び先行調査のレビューについては概ね実施することができ、先行研究・先行調査からの知見の整理、今後の課題についての整理を行うことができた。そのことによって、本研究課題の研究仮説の再検討、修正等を行うことができたと考えている。 また、予備調査として、初年度に予定した一圏域(岩手県)において、弁護士事務所・地域包括支援センター・生活困窮者支援事業所・障害者相談支援事業所等の社会福祉法人を対象に、「入口支援」に関する実態と現状の連携課題についての調査を実施することができ、2年目の調査設計及び研究仮説、研究計画の充実、深化を図るための手がかりを得ることができた。 さらに、研究2年目以降の調査対象となる圏域(宮城県等)の関係機関・団体とのネットワークづくりを行うとともに、調査を実施する上での準備を行うことができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後2年間の研究期間においては、当初の計画を基にし、随時、必要な修正を加えながら、当初の目的に沿った調査研究を進めて行きたいと考えている。まず、被疑者・被告人段階における障害者・高齢者の「入口支援」における地域支援システムのモデルを構築するうえでの基本要件として、司法と福祉の連携に関する構造モデルを仮説的につくり、それらを規定する要因を分析するためのアンケート調査とフォーカスグループインタビュー調査を行っていくこととする。調査対象圏域としては、宮城県・山形県を予定している。これまで「入口支援」のモデル事業に協力し、独自の地域支援システムを構築してきた宮城県の実践について、先進的取り組みとしての実践を評価するとともに、その地域的特性を踏まえた取り組みの課題を明確にしていきたい。また、山形県においては地方における司法と福祉の連携に関する課題を明確にしていくことを目的とする。司法と福祉の連携の新たな展開を図る上で、地域の社会福祉相談機関、サービス支援事業所の積極的な関与とそれを支える連携システムが重要な要件と考えられる。そのための福祉支援事業者の役割と機能を明確にしていくこととしたい。 そして、それらの調査研究を基に、司法と福祉の連携からのソーシャルワークに求められる機能を明確にしていくことを目指す。ソーシャルワークが地域を基盤とした実践を志向し、分野横断的な実践を展開していくなかで、日本的ソーシャルワークの展開として司法と福祉の連携がもたらす意義を検討し、今後のわが国の社会福祉の展開において、ソーシャルワークがどのような役割や機能を持ち得るのか、そしてそのための要件としてどのようなことが問われるのかについて検討していくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究初年度において実施した調査研究に関わる経費において余剰が生じた。それらを踏まえて、2年目の調査研究に関わる内容を一部変更して実施することとする。
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