日本の社会保障モデルは、夫婦のかたちをとる一定の家族モデルを前提として組み立てられているために、シングルマザーや単身女性となれば社会保障制度においては脆弱性を伴いやすくなる。そのためシングルマザーの貧困率は顕著に高い。本研究は、現役世代のうちに加入が義務付けられている年金と、女性の貧困問題の関係を明らかにするために、女性(シングルマザー・高齢単身女性)のライフコースを通じて、その生活における要因を探ることを目的とした。 いくつかの論点が整理されたこととして、低年金に至る直接的な原因は、現役時代の賃金が低いことのほかに、免除期間や未加入期間なども含め加入期間が不十分であることがあった。またその背景には、40年間の加入は義務とされながらも、自分自身の加入の管理は、自己責任に任せられていることがあった。 さらに、ライフコースから見えてきたことは、第1に、シングルマザーになる前からの年金加入と就労との関わりは、多くの免除申請を含む国民年金加入の「経過的性格」をもちながらの「細切れ状態の年金継続」になっていたことである。それは、離婚後も子育てを優先したパート就労が多く、たとえ厚生年金加入者となっていても、将来の安定は見えない低位な状態にあるものが多かった。第2に、シングルマザーにとって、婚姻中の第3号被保険者制度期間は、「国民年金加入歴」を「つなぎ」として保証していたがそれ以上のものではないことである。結果的にみれば、離婚することによって、家族モデルに準拠した従来の制度から排除されることをもたらしていた。第3に、シングルマザーたちの自分自身の老後生活を見据えた年金意識は、当座の生活をしのぐことに追われ、年金制度自体に関する知識も表面的なものとなっていることであった。
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