研究課題/領域番号 |
18K02163
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研究機関 | 聖学院大学 |
研究代表者 |
田澤 薫 聖学院大学, 人文学部, 教授 (70296200)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 保育所 / 吉見静江 / 興望館 / 戦時託児所 / 児童福祉法 |
研究実績の概要 |
新型コロナ感染症の影響を受け研究計画の変更を余儀なくされる中で、本年度に実施した研究活動は、以下の通りである。いずれも、前年度の研究作業からの継続を発展させ、本研究の鍵人物である吉見静江(興望館館長・初代厚生省保育課長)の保育実践理念に迫ることを目的としている。 1.新規の資料収集は、インターネットを活用することで取得できる範囲に限られた。 吉見館長時代の興望館で利用児童が購読していたとみられる『キンダーブック』を入手するとともに、出版元のフレーベル館による『キンダーブック』研究に当たり、幼児が自宅に持ち帰ることから家庭への浸透が顕著である点がセツルメント活動の理念に通底するものがある可能性があるとの仮説のもと、昭和初期当時の保育の特性との関連性を考察した。次年度の感染症状況をにらみながら、興望館資料の保育記録を用いた検証に入りたい。 2.戦前の託児と幼児教育、戦後の児童福祉法下での保育の間に位置する戦時託児所に着目し、先行研究を手掛かりに都内での状況を調査した。 3.前年度に入手していた興望館資料室に所蔵される児童票等の利用者に関する資料をもとに、第二次大戦直後に保育が再開する際の幼児本人と家族による保育利用の動機に着目し、日本教育学会第79回大会「幼児教育・保育」分科会(オンライン開催)で「第二次世界大戦後の幼児保育の再開に関する一考察 ―興望館セツルメント保育園の利用児を手掛かりとして―」の演題で報告し、さらに考察を深めて修正加筆を行ったものを論文「戦時託児所後の保育利用児童に関する一考察 ―興望館セツルメント保育園が再開した日に着目した史的検討―」(聖学院大学論叢33巻1号)として公開した。保育の利用方法が託児から教育目的へと変化する様子は戦前にみられるが、戦中の戦時託児所の経験もありながら、戦後には改めて幼児教育への期待が顕著となったことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナ感染症の感染拡大が続き、計画していた資料調査はほとんど実施できなかった。また、関連する研究テーマに取組む研究者、資料を所蔵・保存する関連施設職員との協議がほとんどできなかった。 本研究に必要な主たる資料が所蔵されている興望館資料室は、オンライン対応はされておらず、同法人が運営している保育所等の児童福祉施設に隣接している。また、研究者の自宅からは都内の公共の交通機関を乗継ぎ1時間ほどの距離である。そのため、新型コロナ感染症の感染拡大が収まらなかった2020年度を通して、訪問を自粛せざるを得なかった。 また、勤務先の急なオンライン授業化・オンラインを通した学生指導に直面し、本研究へのエフォートを大いに下げることでしか対応が不可能であった。 そうした影響により、新規の資料収集が進まず、手持ちの資料等を用い、限定された研究時間の範囲での研究進展になった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に予定しているのは、以下の研究作業である。なお、1.から2.は概ね年度の前半に進め、年度の後半(9月から2月)には勤務先の特別研究期間が認められ、本研究に専念する環境が見込まれることから、3.から7.までを遂行する計画である。 1.ここまでの検討を踏まえ、第二次大戦後において保育所保育が成立した要素を①児童福祉法の成立等法令によるもの、②施設における実践の蓄積によるもの、③利用者(幼児本人および保護者)の保育への期待・認識によるもの、④社会における児童文化等の環境によるもの、⑤その他、と考え、これらを確認するための指標となる事項を、すでに行われた検討を基に挙げる。2.すでに旧年度中に行われた興望館資料室所蔵資料の調査の成果を、上記の各要素に照らした整理に着手する。3.興望館資料室に通い、同室の所蔵資料の調査にあたる。4.付随して国立公文書館、東京都公文書館に所蔵される関連資料の調査を行う。5.1.で立てた各要素において情報整理・分析を行う。その際、①第二次大戦以前に実施されていた保育・託児、戦時託児所および疎開保育における保育・託児、戦後の児童福祉法成立以前の保育・託児、児童福祉法が描いた保育所保育の経緯を追い、保育内容・保育実践・乳幼児の体験・保護者の体験・保育者の体験・施設運営から各要素について考察を行う。6.関連する学会・研究会等で報告して関連領域の研究者との議論に付し、あわせて、興望館関係者に報告して協議に付し、そうした協議を経て、論考をまとめて公表する。7.本研究の最終年度に向けた総括の方向性を再検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナ感染症の感染拡大のため、予定していた興望館資料室に出向いての資料調査が全く実施できなかった。興望館資料室が保育所等の児童福祉施設と隣接し、研究者の自宅からは公共の交通機関を乗り継いで1時間ほどの距離にあり、研究者が研究活動を遂行することによる感染の危険が否定しきれなかったためである。また、神戸大学で開催予定だった日本教育学会第79回大会がオンライン開催に変更となったことをはじめ、本研究の一環として出席予定であった学会・研究会が中止またはオンライン開催となった。そのため、旅費が発生しなかった。 加えて、突然にすべての授業がオンライン化されたことに応えることに時間を費やし、本研究のエフォートが大きく下がり、研究に時間を割くことができなかった。 2021年度は後半に6か月間の特別研究期間の取得が認められている。本研究に専念できることが見込まれるため、昨年度に実施できなかった分の研究活動に取組むことができ、自ずと助成金の活用につながると期待される。具体的には、興望館資料館と感染予防策を相談の上、他者との接触を避けて資料調査を実施する。研究成果の公表のための論文投稿・報告書作成のための使用も予定している。
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