研究課題/領域番号 |
18K02187
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
與倉 弘子 滋賀大学, 教育学部, 教授 (50165784)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 綿クレープ織物 / シルエット評価 / 感性評価 / 素材特性 / パイル織物 |
研究実績の概要 |
人類の福祉を支える豊かな衣生活を営むためには、ヒトの感性に適合した感性価値を持つ繊維製品が求められる。本研究は、伝統織物の素材特性から新たな感性価値を設計することを目的としている。伝統織物としては滋賀県湖西の綿クレープ織物を対象とする。感性価値としては、婦人ドレス地としての質感や審美性、 シルエットの美しさなどヒトの感性を動かす感覚に焦点を絞り、感覚評価法により指標化を進める。 本年度は、女子大学生によるドレープ衿の感覚評価値と素材特性に基づくシルエット分析結果が得られている綿クレープ織物について、服飾デザイナーや服飾デザインを専門分野とする大学教員に当該織物を提示し、これを活かした服種・服飾デザイン等に関する聞き取り調査を実施した。これに基づいて経糸方向のハリとファインピケの材質感を活かした婦人服を数種類製作し、シルエット分析や感覚評価の妥当性を実践的に検証した。その研究成果を快適性とスマートテキスタイルに関する国際会議で発表した。また、滋賀県工業技術センターが地場産業振興用に試作したゆかた用の伝統織物(長浜ちりめん、近江麻、高島ちぢみ)の素材特性を測定して、夏の衣料としての機能性の評価とシルエット分析を行った。素材特性に基づくシルエット分析結果と実際の着物のシルエット(ゆかたの実装)との関係について、日本家政学会被服構成学部会夏季セミナーで報告した。しぼ構造を持つ織物の夏用素材としての特徴と空間形成への寄与を実証し、被服構成学分野の専門家による評価を得た。最終製品まで完成することにより、布の素材特性によるシルエット評価の妥当性を実証できたと考える。なお、伝統織物としての研究対象を広げ、綿パイル織物についても触感評価と素材特性の関係を検討しており、研究成果が学会誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、女子大学生によるドレープ衿の感覚評価値と素材特性に基づくシルエット分析結果が得られている綿クレープ織物について、服飾デザイナーや服飾デザインを専門分野とする大学教員に当該織物を提示し、これを活かした婦人服を製作した。素材特性に基づくシルエット分析結果と実際の婦人服との関係を国際会議で報告した。また、滋賀県工業技術センターが地場産業振興用に試作したゆかた用の伝統織物についても、素材特性に基づくシルエット分析結果と実際のゆかたのシルエットとの関係を日本家政学会被服構成学部会夏季セミナーで報告することが出来た。最終製品まで完成することにより、布の素材特性に基づく衣服のシルエット特性評価の妥当性を実証しており、概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年以降も伝統織物の感覚評価と素材特性の測定を継続する。感覚評価の評価対象群や被験者数を増やし、評価項目・評価方法を精査して、量・質ともに充実を図る。特に、視感評価に基づく材質感が、織物の清涼感、滑らかさや好き嫌い、癒し効果に及ぼす影響について検討して理解を深める。なお、新型コロナウイルス感染症への対応により従来通り対面による感覚評価の実施が難しい場合は、遠隔操作による安全な感覚評価の方法を検討する。充分な評価者数が得られない場合は、これまで蓄積している感覚評価に基づき、これに対応する素材特性の測定方法の改善・最適な測定条件の検討に力点を置いて研究を進める。さらに、滋賀県湖西地域の地場産業に関わる企業の熟練技術者との協働により試作した新素材と伝統技術を併用した伝統織物について、素材特性とシルエット特性を評価して、新規用途への展開や感性価値の創造に寄与する。伝統織物として対象を広げ、綿パイル織物の感覚評価も引き続き実施して、テキスタイルへの愛着や癒し効果と素材特性の関係について検討を進める。得られた研究成果を関連学会で報告する。 また、伝統的綿織物の持つ「生活文化としての伝承性」や天然繊維である綿織物の環境適応性について、消費者教育・家庭科教育の教材としてまとめる。伝統織物のエシカル消費に関する知識の有無が、消費者の感性評価や衣生活意識・衣生活行動に及ぼす影響について検討し、持続可能な衣生活の構築に資する基礎的知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
素材特性の測定に必要な治具や消耗品の追加購入を予定していたが、年度内に追加で必要な消耗品が生じなかったため、次年度助成金と合わせて使用する。
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