人類の福祉を支える豊かな衣生活を営むためには、ヒトの感性に適合した感性価値を持つ繊維製品が求められる。本研究は、伝統織物の素材特性から新たな感性価値を設計することを目的とした。伝統織物としては滋賀県湖西の綿クレープ織物を対象とした。感性価値としては、婦人ドレス地としての質感、シルエットの美しさやなじみのよさなど、ヒトの感性を動かす感覚に焦点を絞り、感覚評価法により指標化を進めた。 最終年度も感染症対応で感覚評価の実施が困難となったため、布の素材特性に基づく質感の評価に焦点を絞った。布の素材特性に基づく風合い客観評価システムを用いて、繰り返し洗濯・着用後の綿クレープ織物の素材特性の変化を測定し、繰り返し着用時に感じる質感を評価した。また、伝統的な綿織物を教材とした中学校家庭科衣生活の授業が中学生の消費意識・行動に及ぼす影響について検討し、持続可能な衣生活のための消費意識の醸成に向けて基礎資料を得た。 研究期間全体を通じて以下の成果が得られた。1)綿クレープ織物の素材特性に基づくシルエット分析により、ハリのある婦人服に適用できることを確認した。織物の凹凸(しぼ)形状についてはファインピケ加工の試料が美しいと評価された。これらに基づいて、経糸方向のハリとファインピケの材質感を活かした婦人服を服飾デザインの専門家と協働して数種類製作し、シルエット分析や感覚評価の妥当性を実践的に検証した。2)繰り返し洗濯・着用後の綿クレープ織物の素材特性の変化を測定し、消費過程における質感を評価した。綿クレープ織物は、強撚糸織物の特徴であるシャリ感を残したまま、着用後しなやかなでソフトな風合いになると評価された。3)伝統的な綿織物を教材とした中学校家庭科衣生活の授業が中学生の消費意識・行動に及ぼす影響について検討し、伝統織物を用いた製作活動を通して消費意識が維持される傾向が捉えられた。
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