研究課題/領域番号 |
18K02201
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
安川 あけみ 弘前大学, 教育学部, 教授 (70243285)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | UVカット / 綿布 / 粒子 / アパタイト / 後加工 |
研究実績の概要 |
Ca(OH)2およびH3PO4水溶液と,Ti(SO4)2(IV)溶液またはCe(NO3)3·6H2Oを用いた湿式法(100℃,2 d)により,様々なTi/(Ti+Ca)比をもつTiCaHapならびに様々なCe/(Ce+Ca)比をもつCeCaHap固溶体粒子を調製した。得られた粒子の構造をXRD,TEM,FE-SEM,EDS分析等種々の方法で調べ,UV吸収性能をUV-vis(反射法)で調べたところ,Ti4+ならびにCe3+含有量が増加するとともに粒子のUV吸収能も向上したが,TiCaHap粒子はUVB領域(波長320-280 nm)で,CeCaHap粒子はUVA領域(400-320 nm)で吸収能が高いことがわかった。夏物衣料に多く用いられる綿布を試料布として,浸漬法(分散液:粒子濃度0.01~0.10 g/10 cm3,水:エタノール = 1:1,振とう:25℃,60 spm,30 min)により上記2種類の固溶体粒子を担持し,布のUVカット性能をUV-vis(透過法)で測定して比較した結果,TiCaHapおよびCeCaHap担持布は,各々粒子の性質に依存するUV領域で透過率が低下し,UVカット性が向上することがわかった。また,水ならびにSDS水溶液を用いて洗浄(25℃,60 spm,15 min)した後も,布のUVカット性はかなり保たれた。 UVBは地表に届く比率は数%ながら人体に与える影響が大きく,一方UVAは,影響は比較的軽いものの我々が浴びるUVの95~98%と言われており,UVB,UVA両者からの防御が必要であると考えられる。したがって,上記の実験結果から,今後Ti4+とCe3+の含有量を調整したTiCeCaHap固溶体粒子を調製すれば,吸収波長を制御できるUVカット物質が調製可能と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,使途に応じてUV吸収波長を制御できる物質を合成し,布に担持して布のUVカット加工をすることであるが,その第一段階として,吸収波長が異なる物質,すなわち,UVB(波長領域320-280 nm)をよく吸収するTiCaHap粒子と,UVA(400-320 nm)をよく吸収するCeCaHap粒子を得られたことは大きな成果と言える。また,各々の粒子中で,Ti4+ならびにCe3+の含有量を変えることにより,各々の波長領域でのUV吸収能を変化させることができることは,使途に応じた物質の調整が可能であることを裏付けるものである。加えて,得られた粒子が綿布に担持可能であることがわかった点は,実用化の可能性が充分考えられる。ただ,粒子担持布のUVカット性能の,繰り返し洗濯に対する耐久性や,綿以外の繊維に対する効果は今後の課題であると言える。 万一,Ti4+イオンとCe3+イオンの両方を含有したTiCeCaHap固溶体粒子の調製がうまくいかない場合は,水酸アパタイト(Hap)構造におけるCa2+,Ti4+ならびにCe3+のイオン半径の差が大きいことが考えられるので,アパタイト構造の2種類の陰イオンサイト,すなわち,OH-サイトならびにPO43-サイトに炭酸根(CO32-)を入れた炭酸含有アパタイト(Cap)も視野に入れて粒子合成に臨む。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から得られた結果を基に,UVB(波長領域320-280 nm)をよく吸収するTi4+イオンとUVA(400-320 nm)をよく吸収するCe3+イオンの両方を含有するTiCe含有カルシウムヒドロキシアパタイト((TiCeCa)10(PO4)6(OH)2,TiCeCaHap)粒子の調製を試みる。方法はCa(OH)2,Ti(SO4)2(IV)溶液,Ce(NO3)3·6H2OおよびH3PO4水溶液を用いた湿式法で,Hap固溶体粒子におけるCa2+,Ti4+ならびにCe3+イオンの比率を種々に変え,純粋なHapが得られる条件を調べる。得られた粒子の構造とUV吸収性能を種々の方法で調べた後,布への担持に適すると考えられる粒子を選択し,試料布に担持し,粒子担持布のUVカット性能および耐洗濯性を調べる。 純粋なTiCeCaHap粒子の調製が順調に進まない場合は,バブリング法により炭酸根を含有させた炭酸含有アパタイト(Cap)の調整を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
備品の購入に関して,布への粒子担持において,当初,中型の超音波洗浄器(購入予定)を用いて300mLビーカー6個の分散液に対して同時に超音波照射する方法を予定していたが,個々の分散液の状態を見ながら調整する必要が生じ,従来から保有している小型の超音波洗浄器で目的が達成されることがわかり,新規の購入を控えたためである。 また,依頼試験と機器使用料に関して,使用料の値上げの可能性も告げられていたが,従来の単価での使用が可能であったことと,今年度予定していた粒子合成の一部を次年度に繰り越したために,測定についても一部を次年度に回し,次年度の測定予定を増やすことから,次年度の使用額が生じたものである。
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