研究課題/領域番号 |
18K02201
|
研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
安川 あけみ 弘前大学, 教育学部, 教授 (70243285)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | UVカット / アパタイト / チタン / セリウム / 綿布 |
研究実績の概要 |
Ti:Ce:Caの割合を種々に変えたTiCeCaHap固溶体粒子を湿式法により調製した。Ti/(Ti+Ce+Ca) = 0.01,Ce/(Ti+Ce+Ca) = 0.01,Ca/(Ti+Ce+Ca) = 0.98の条件で得た粒子をTi1Ce1と名付け,これ以外にTiおよびCeの比率を変えた場合もそれに準じてサンプル名とした。得られた粒子の構造をXRD,FE-SEM,EDS分析,TG-DTAで調べたところ,Ti:Ce = 1:1の条件では,Ti3Ce3までは純粋なアパタイト結晶相の粒子が得られるが,Ti5Ce5ではアパタイト以外の結晶相との混合物になることがわかった。本研究の1年目までの研究により,TiCaHapではTi/(Ti+Ca)が0.40以下,CeCaHapではCe/(Ce+Ca)が0.01以下で純粋な固溶体が得られることがわかっているので,Tiの比率だけを上げたところ,Ti5Ce3およびTi10Ce3も混合物であることがわかった。これらの結果より,CaHap,Ti0.5Ce0.5,Ti1Ce1,Ti2Ce2,Ti3Ce3の5種類の粒子について,UV-vis(反射法)でUV吸収性能を調べた。CaHap粒子は特に紫外線(UV)吸収能を有していなかったが,TiならびにCe含有量が増加するとともに粒子のUV吸収能が向上した。本研究の1年目までの研究により,TiはUVB領域(波長320-280 nm)で,CeはUVA領域(400-320 nm)で吸収能が高いことがわかっていたが,本研究で得られたTiCeCaHap粒子はUVB,UVA両領域にわたって強い吸収能をもつことがわかった。したがって,夏物衣料の材料として多く用いられている綿布等にTiCeCaHap粒子を担持することにより,広い領域のUVをカットできる被服材料の作製が期待できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,太陽光のうち地表に到達する紫外線,すなわち,UVB(波長領域320-280 nm)およびUVA(400-320 nm)をともに十分に吸収する物質や,使途に応じてUV吸収波長を制御できる物質を合成し,布に担持して布のUVカット加工に利用することである。本研究の1年目はUVBをよく吸収するTiCaHap粒子を調製し,それらの構造とUV吸収能を調べた。過去に得たUVAをよく吸収するCeCaHap粒子と比較検討した。2年目にあたる昨年度は,TiとCeを両方含有したTiCeCaHap固溶体粒子を調製し,TiならびにCeの含有比率と得られた粒子の構造を詳細に調べた。この結果,TiならびにCeの含有量が増加するとともに,粒子のUV吸収能が向上した。それに加えて,TiCeCaHapはTiCaHapやCeCaHapよりも広い波長領域のUVを吸収することがわかった。また,CeCaHapでは1%までしかアパタイト結晶中に入らなかったCeが,TiCeCaHapにおいては3%まで含有することがわかり,これはUV吸収物質の獲得の上だけでなく,陽イオン交換アパタイトの合成分野でも興味深い,大きな成果と言える。 一昨年度,TiCaHap粒子およびCeCaHap粒子を綿布に担持して,布のUVカット加工を行い,加工布のUVカット性能を調べたが,今後はTiCeCaHap粒子を綿布等の被服材料に担持してUVカット加工布を作製する予定であり,その基となるTiCeCaHap粒子が計画どおりに調製でき,期待できるUV吸収能を有していることがわかったことは,本研究が計画に沿って順調に進行しているものと言える。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から得られたTiCeCaHap 粒子調製とその構造と性質を学術雑誌に公表する。並行して,TiCeCaHap粒子を綿布等の基質に担持して,得られた加工布のUVカット性能や他の種々の性質を調べる。布への粒子担持は,これまでTiCaHap粒子やCeCaHap粒子を用いて行った後加工,すなわち,粒子分散液中に基質の布を浸漬して行う浸漬法を基本とする。この加工法に不都合が生じた場合や,得られた加工布のUVカット性能が不十分な場合は,カチオン処理剤などのバインダーを用いた前処理も視野に入れて,高評価の得られる粒子担持法を実施する。加工布のUVカット性能が高くても,加工により布の本来の性質が損なわれては本末転倒である。例えば,布の吸水性,保温性,はっ水性,通気性などの生理機能に大切な要素や,防しわ性,硬さ,滑らかなどの審美性に大切な要素,それに加えて強度などを調べ,加工の前後で大きな性能低下がないかどうかを調べる。さらに,被服は着用と洗浄の繰り返しが基本であるから,洗濯によるUVカット性能の大きな低下がないかどうかも調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
県内の産業技術センターならびに学内の共同機器分析センターでの機器使用料に関して,使用料の値上げの可能性を告げられていたが,従来の単価での使用が可能であったこと,加えて,予定していたサンプルよりも数がいくらか少なくて済んだために費用が抑えられた。依頼試験について,予定していたサンプルよりも数がいくらか少なくて済んだため費用が抑えられた。出張旅費について,年度末に予定していた出張がCOVID-19感染予防の観点で中止となったために費用が抑えられたものである。 次年度の使用計画としては,元々予定している結晶構造や電顕観察の測定に加え,表面構造を調べる測定を計画している。また,依頼試験のサンプル数を増やす予定である。
|