アルカリ性に調整した小麦澱粉の糊化過程についてゲルの物性変化から検討した.澱粉の糊化過程についてはDSC測定により評価した.pHは緩衝液を用いて,pH6.5~11.3に調整した. pHを高くした20wt%小麦澱粉ゲルの破断応力と初期弾性率はpHを10程度まで高くするとわずかに高くなった.しかし,pHが11を超える非常に強いアルカリ性では顕著に低くなった.また,破断歪はpHが高くなると低くなったが,強アルカリ性では高くなった.したがって,pHが11程度の弱アルカリ性では,変形に対して強く,ややかたいゲルを形成し,pHが11を超える強アルカリ性にすると,やわらかいが,しなやかなゲルを形成することがわかった.これはコーンスターチやサゴ澱粉ゲルのアルカリによる変化と同様だった. アルカリ性に調整した小麦の糊化温度は,pHが10程度の弱アルカリ性では,pH6.5の中性付近の糊化温度よりも高く,また澱粉粒子が膨潤する温度も高くなった.また,糊化エンタルピーも大きくなることがわかった.しかし,pHが11を超える強アルカリ性では,糊化温度と澱粉粒子の膨潤する温度が低くなり,糊化エンタルピーも低くなった.すなわち,弱アルカリ性では糊化が起こりにくくなるが,強アルカリ性では糊化が起こりやすくなった. 弱アルカリ性では,糊化が起こりにくくなっため,澱粉ゲル内に澱粉粒子が多く残っており,それらがゲルの構造を支え,強いゲルを形成したのではないかと推察される.しかし,強アルカリ性では,アミロース鎖やアミロペクチン鎖が切断され,長さが短くなり,絡まりあいが弱くなったため,やわらかいゲルを形成したと考えられる.しかし,アミロース鎖とアミロペクチン鎖の数が多いためにしなやかなゲルを形成したと考えられる.
|