研究課題/領域番号 |
18K02216
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研究機関 | 宇都宮短期大学 |
研究代表者 |
中川 英子 宇都宮短期大学, 人間福祉学科, 教授 (70352573)
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研究分担者 |
重川 純子 埼玉大学, 教育学部, 教授 (80302503)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生涯家計 / 家族 / 生活史 / 高度経済成長期 / 平成時代 / 実収入 / 家計調査 / 共働き世帯 |
研究実績の概要 |
家族の生活史を客観的に明らかにできる資料の一つとして、長期家計記録がある。しかしこの種の先行研究は非常に少ない。なかでも高度経済成長期から平成期までの50年間にわたる家計記録から、一家族の生活史を明らかにした先行研究は見当たらない。 本研究の目的は、この間の家族創設期から老後期に至る間の家計変動から、一勤労者世帯の生活史を後世に残すととともに、今日の生活設計に資する貴重な資料を提供することにある。このたび一家計の50年間の一貫した事例家計(A家)の資料が手元に揃ったことで、家族形成期から老後期までの生涯家計が分析可能となったものである。(このうち当初20年間(子の教育期まで)は、分析・発表1)している) 初年度は、昭和42年から平成30年に至る間の一貫した家計記録から、家計収入の変動と固定資産の状況を明らかにすることで、A家が辿った家族の生活史を明らかした。具体的には、(1)A家の夫が一流企業に勤務(妻は専業主婦)していたことにより、夫の現役時代は一貫して勤労者世帯の平均的な実収入を大きく上回っていたこと。(2)専業主婦だった妻が、3人の子どもの子育てが一段落した39歳から大学に入学、54歳から常勤職に就いたことで、共働きとなったA家の老後期の実収入は、高齢者世帯の平均的な実収入を大きく上回るものとなっていったこと。(3)A家の固定資産(土地・家屋)の推移は、子育て期に購入した居住用資産(土地115平米・家屋99平米)を皮切りに、老後期には、居住用資産(土地400平米・家屋180平米)、収入用資産(マンション2部屋(56平米・65平米))を持つまでになっていったことなどである。本研究からは、少子・高齢社会における生活設計の一つのあり方が示唆された。 1)中村隆英編『近代日本の生活史』、中川英子「夫の順調な収入の伸びに支えられた家計」357~373、東京大学出版会、1994
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画は、初年度は、①先行研究の蒐集・整理、②生涯家計の把握と家計資料(平成元年~平成28年注))のデータ整理・入力・集計(昭和42年~平成63年は分析・発表済)であった。しかしながら、①については、ほほ完了したが、②については、その期間を研究計画当初から2年を経たことから、その後の新たな資料2年分を加えて、平成元年~平成30の家計資料を分析対象とした。そのためデータ整理・入力に手間取った。 また、本研究を手がける前から予測されていたことだが、分析対象の中心となったA家の家計資料は、企業の会計簿のように明瞭な記録ではなく、あくまで家計記録者が自身のメモとして残していたものである。そのため、家計簿を補足するための資料整理にかなりの時間を費やすことになってしまった。その結果、この一年間でデータ入力・集計できたのは、A家の家族創設から老後期に至る50年間の一貫した収入(世帯主と妻の実収入とその内訳と非消費支出)と資産記録から把握した固定資産の変動のみで、50年間の一貫した支出のデータ入力・集計にまでは至らなかった。 さらに、非消費支出の内訳(年金・健康保険料、所得税など)についても、断続的な数値を把握するのに留まっていて、さらなる家計記録の整理が必要な状況である。本年度積み残した50年間の一貫した支出および非消費支出の内訳等のデータ整理・入力・集計については、次年度の課題としていく予定である。 一方、初年度の研究計画にはなかったA家の生活史を、50年間の収入と各種家計記録から把握したが、これについても時間がかかったことも、当初の研究計画通りにデータ整理・入力が進まなかった要因となっている。
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今後の研究の推進方策 |
当初、本研究2年目に予定されていたA家の50年間の家計変動(収入のみ)と固定資産の変動から生活史を把握することについては、研究初年度(2018年度)までにほぼ完了したした。また、本家計の特色についても、本家計の世帯主年齢と同じ家計調査の勤労者世帯の長期家計モデルとの比較からその位置づけを明らかにした。その結果、当初の研究計画にはなかった学会発表(日本家政学会第71回大会)を予定(2019年5月25日)し、研究2年目の研究計画を前倒しする形でクリアした。 そのため研究2年目(2019年度)は、①本年度積み残した課題である50年間の一貫した支出および非消費支出の内訳についての資料整理とデータ入力に徹することにする。さらに②時系列の集計データ(昭和42年~平成30年の収入と支出)の確認と分析をする。 最終年度(2020年度)は、①A家計が辿った時代(昭和42年~平成30年)と重なる時代の長期事例家計や生涯家計モデルと比較することで、高度成長期から平成期にあった一事例家計、A家の家計変動や生活史の特色、生活設計のあり方などについて考察する。また、その成果を②国際学会(「International Federation for Home Economics World Congress2020」)において発表する。さらに、②関連する学会誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じたのは、本年度が資料整理・集計・入力の作業だけで費やされてしまい、新たに文献を購入して参考にするところまでには至らず、当初予定していた図書購入等にまで手が回らなかったためである。そのため、来年度は、翌年度助成金と合算した請求額を計画したものである。
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