研究課題
(1)共食映像コーパスの作成:昨年度までに収録した共食映像に対し,6人4組の御膳スタイル,大皿スタイルにおける会話シーンのコーパスを作成した.具体的には,発言内容は御膳スタイル158分,大皿スタイル144分が,また視線方向については御膳スタイル,大皿スタイル20分ずつ計40分のコーパスである.(2)食事スタイルによるコミュニケーションの特性抽出:食事スタイルによるコミュニケーションの特徴を会話の分裂に着目した分析を行った.会話の分裂は4人以上の会話から生じることがあり,今回の6人会話において,会話の分裂と統合に食事形式に起因する行動がいかに影響するかについて分析した.これにより,大皿スタイルは取り分け行為により会話の分裂が生じる事例が確認され,当該トピックに参与していなかった座席が離れたもの同士が,大皿の受渡しで新たな会話を開始することが可能であることがわかった.さらに高齢者同士がお互いを知り合い,親睦を深める手段として自己開示の発話に着目した分析を行った.その結果,大皿スタイルでは話題の数が多い,食事が始まってから中盤にかけて自己開示が増加する傾向が示された.御膳スタイルでは ,1つの話題あたりの自己開示が多い,食事の序盤と終盤で中盤に比べて自己開示の回数が多い傾向が確認された.このことから高齢者の共食会話における自己開示は,大皿スタイルが親密度のそれほど高くない人同士,御膳スタイルは親密度がある程度確保されている人同士での食事場面に適していることが示唆された.これらの成果は電子情報通信学会HCS研究会,情報処理学会高齢社会デザイン研究会にて発表した.
2: おおむね順調に進展している
初年度において,共食会話映像を8本収録し,収録された映像すべてを対象とした人の会話行動のコーパスを構築している.またそのコーパスに基づき人の発話内容や行動特徴を抽出し,高齢者のコミュニケーションに寄与する食事形態の分析を進めている.得られた結果は電子情報通信学会,情報処理学会などで発表し,多くの研究者らと議論することにより,着実に知見を集めている,よって本課題は当初計画に対して,おおむね順調に進展している.
引き続き,コーパス構築を進める.そのためアノテータを継続して雇用し,コーパスの構築を加速する.並行して現段階のコーパスを分析し,成果発表を行っていく.食事中に表出される言語非言語情報を定量的,定性的に分析し,本研究の最終目標である,高齢者が社会的ネットワークを効果的に形成できる共食の在り方を,人間行動科学的なエビデンスを持って提案する.成果は,電子情報通信学会,情報処理学会などで報告する.
発表,及び聴講を予定していた学会が新型コロナウィルス感染予防の観点より中止になり,旅費の執行がなされなかった.また,現在英文論文を執筆中で,次年度は投稿にあたり英文校閲とジャーナル掲載料が必要となった.成果発表に向け予算計画を組みなおした.
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Clinical Interventions in Aging
巻: 14 ページ: 2031-2040
doi.org/10.2147/CIA.S225815