研究実績の概要 |
本研究の目的は、未解明のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の活性増強によるヒストン脱アセチル化調節を介したアンチエイジング効果の存在とその分子メカニズムを明らかにすることである。はじめに、線虫の寿命を延伸する効果が確認されたリグナン化合物のHDAC活性に対する影響を、人工合成蛍光基質を利用したHDAC活性測定を用いて評価した。その結果、リグナン化合物はクラスⅠに属するHDACを活性化していた。そこで、線虫の寿命延伸がHDACクラスⅠのどれによる調節であるのかを確認するため、各酵素を欠損する線虫(変異体、hda-1,2,3)を用いて検討を行った。その結果、HDAC1,2,3の活性化が寿命延伸に関わることが明らかとなった。次に、HDACにより影響を受ける候補遺伝子を特定するため、リアルタイムPCR法による遺伝子解析を行ったところ、hsp70、sod-1、gcs-1、pmk-1の発現が増強されていた。pmk-1は転写調節因子skn-1のリン酸化に関与する酵素であり、skn-1はgcs-1のプロモーター領域に結合部位をもつ可能性が示されていたことから、リグナン添加時の線虫内skn-1の局在を蛍光顕微鏡観察した。その結果、リグナン添加により、skn-1の核内への移行が増加している現象がみとめられた。また、hda-2変異体をリグナン化合物で処理し、各遺伝子の発現量の比較を行ったところ、セコイソラリシレシノールとピノレシノールを投与したhda-2群ではpmk-1遺伝子の有意な発現増強が確認されなかった。 以上より、セコイソラリシレシノールとピノレシノールはHDAC活性を増強し、ヒストンの脱アセチル化を促進することでpmk-1を活性化または発現誘導し、次いでskn-1を核内移行させて寿命延伸に関連する遺伝子sod-1やgcs-1などの発現を増強することで寿命を延長していると考えられる。
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