研究課題/領域番号 |
18K02236
|
研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
田中 元志 秋田大学, 理工学研究科, 准教授 (50261649)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 生活活動音 / 足音 / 時間-周波数解析 / 特徴抽出 / 自己組織化マップ / 深層学習 |
研究実績の概要 |
音による家屋内事故等の異常検出を目的に,マイクロフォン1本を用いて採取した日常の生活活動音(生活音)の特徴抽出とその自己学習の方法,および足音識別への深層学習の利用を検討した。なお,生活音などの採取においては,秋田大学の研究倫理審査委員会の承認を受け,被験者の同意を得たうえで行った。主な成果を以下にまとめる。 (1) 生活音の特徴抽出と自己組織化マップの利用に関する検討: 男性1人暮らしのアパート内で録音(サンプリング周波数192 kHz)した日常の生活音について,時間-周波数解析を行った。特徴量として,周波数帯域幅80 kHzを15個に分割したサブバンド内の合計電力(特徴ベクトルA)と,12次MFCC(特徴ベクトルB)を求めた。そして,教師なし学習の1つである自己組織化マップ(SOM)の利用を検討した。生活音約6時間分の特徴ベクトルを学習させ,SOMを作成した。異常候補を判別するため,勝ちニューロン数が多いニューロンの周辺を平滑化するフィルタリングし,学習に用いたデータのほとんど(例えば99.5%)が含まれる領域を日常音,それ以外を異常候補となるように二値化した。異常模擬音として転倒時の音10音と悲鳴4音の判別を試みた結果,特徴ベクトルAを用いた場合の方が成績がよく,転倒音を全て異常候補として検出したが,悲鳴については半数であった。 (2) 足音の深層学習による歩行者識別の試み: 足音(サンプリング周波数44.1 kHz)の時間-周波数解析を行い,20次MFCCを求めた。画像認識などに用いられるLeNetを改良したネットワーク構造で深層学習を行い,足音の識別を試みた。被験者10名とし,足音8歩分のMFCCを教師用データと検証用データとして交差検証を行った結果,被験者の足音を80%以上の識別率で検出できた。足音認識への深層学習の利用の可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は,日常の生活活動に伴う音の特徴抽出とその学習方法に関する検討を中心に行った。日中の生活音の特徴抽出に関する検討から,可聴領域より高い周波数帯の情報を用いるとよい可能性が示唆された。ただし,これまで試作してきたプログラムでの比較であり,現時点で評価方法を確立できないため,より適当な特徴量の抽出には至っていない。また,夜間睡眠時の音については,呼吸音の採取が容易ではなく,詳細な検討は今後の課題となった。特徴量の学習方法については,異常候補(異常を模擬した音)の判別方法の検討が必要になるが,自己組織化マップの利用の可能性が示唆された。通常の生活内では異常音の情報(判別のための教師信号)を得ることが困難であり,他の教師なし学習方法の利用の可能性も含めた検討が必要である。一方,足音の識別については,8歩分のMFCCを画像情報として教師信号に用いることで深層学習を利用でき,識別率向上の可能性が得られた。履物や場所などの環境および歩行速度の違いへの対応が,今後の課題である。これらの課題については,2019年度の計画に組み込み,引き続き検討を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
2019年度は,日常の生活音を日中と夜間(睡眠時),および足音に分け,それぞれに適する採取(録音)方法,特徴抽出,学習方法,および識別方法についての検討を行う。日中の生活音については,抽出した特徴量(特徴ベクトル)を自己学習させるための教師なし学習方法を選定する。長時間の生活音から得た膨大なデータを数個の状態(クラスタ)に集約させて確率モデルを作成し,それを用いて音の発生確率を算出する。そして,音の発生確率の変化から異常候補を検出する方法を検討する。夜間の音については,睡眠時の呼吸の検出を中心に検討する。足音については,履物などの環境の違いや歩行速度の違いに対応可能な学習および識別方法を検討する。本研究では,必要に応じて,被験者を用いた音の採取,および主観評価試験を行う。そのため,本年度においても秋田大学の人を対象とした研究倫理委員会の承認を受けた。 2020年度は,異常候補の検出方法の検討と,可搬な実験システムの試作を行う。異常候補の検出には,これまでに検討・抽出した特徴量を用い,それらを組み合わせた検出方法(アルゴリズム)を検討する。転倒などの異常を模擬した音を多数用意し,検出率(識別率)を求めて評価する。また,判断基準(しきい値など)を適切に決める必要があり,その方法についても検討する。これと並行して,異常候補検出アルゴリズムを搭載した,可搬かつリアルタイム処理が可能なシステムを試作する。これを被験者宅の部屋内に設置し,日常の生活状況での動作確認と調整を行う。そして,条件(環境,被験者)を変えて実験を行い,検出アルゴリズムの評価と改良を加える予定である。
|