熊本地震で被災した分譲マンションの復旧過程に関する調査を行い、分譲マンションの被災時における復旧に向けた課題を明らかにすることを目的としている。今年度は、1)昨年度実施した調査の分析と、2)研究年度全体を通しての総括、3)全壊事例の継続調査、4)防災マニュアルの検討などを行った。昨年度実施した調査の結果は以下の通りである。ア 改修工事後の問題点として、2割程度のマンションで問題点があるとしており、大規模半壊・全壊で問題点がある事例が半壊等に比べて多いことや、具体的な内容として、塗装の浮きが最も多く、次いで外壁のクラックの広がりや応急修理時の天井塗装の剥離、クラックからの水漏れなどがみられることを把握した。イ 地震前から予定していた長期修繕計画を、4割弱のマンションで見直ししており、被災状況が「半壊」のマンションにおいて見直しを実施しているとした回答が多く見られた。ウ 地震発生時の復旧工事への経済的な備えとして2割強のマンションが修繕積立金を値上げし、料金の値上げ幅は17円/㎡から最大で145円/㎡であった。 研究年度全体を通じた総括として、全壊事例を取り上げ、発災から公費解体までの各事例の復興プロセスと専門家との関わりについて整理し、論文を投稿した。 全壊事例の継続調査では2件の被災マンションに対し、継続的な調査により復興プロセスの実態把握を行った。うち、敷地売却を行った事例では、当初目標どおり敷地売却の目途が立ち、残すは敷地共有者で作られているNPO法人の解散のみとなった。また、建て替えを選択した事例では、新型コロナ感染症により共用部の設計変更等が事業者側から提案されるとともに、建築予定地から文化財が発掘されたことから工期が延長された。また、これまでの調査等を踏まえ、被災後の復旧過程において、居住者が検討する必要がある課題を抽出し、防災マニュアルの記載内容を検討した。
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