研究課題/領域番号 |
18K02243
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
生田 英輔 大阪市立大学, 大学院生活科学研究科, 准教授 (50419678)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 避難行動 / リスク認知 / ハザードマップ |
研究実績の概要 |
2020年度はフィールドでの避難実験を実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、実験室実験形式へ変更した。 ハザードマップに関する既往研究では、ハザードマップ自体の類型化やコンテンツの認識などはあるものの、マップを実際に活用している間の情報取得過程や避難行動決定への影響は評価されていない。そこで、本研究では視線追跡装置(アイトラッキング装置)を用いて定量的にハザードマップを活用する過程を評価することを試みた。これは、フィールドでの避難行動実験を模擬するものであり、実際に歩行は行わないものの、本研究の命題であるリスク認知と避難行動の関係に対して一定の考察は可能であると判断した。被験者は本研究の対象である高齢者を検討したが、装置の制約により眼鏡不使用者に限定されたため、40-65歳の被験者で設定した。また、比較対照として18-24歳も被験者に加えた。 実験では、はじめにアンケート調査で被験者のハザードマップの活用状況や防災への意識を把握した。つぎに、大阪市内の特定の区の津波ハザードマップを加工し、実験用地図を作成し、ディスプレイ上で表示できるようにした。実験では避難経路の探索タスクを設定し、マップ上の多様な情報の取得過程から避難経路の判断を行い、視線傾向や探索時間から評価した。結果から、ハザードマップからリスク情報を適切に取得しているかどうかで、避難経路や距離へ影響が出ること、18-24歳群は40-65歳群と比較して避難経路の探索に時間がかかることなどがわかった。また、ハザードマップは繰り返し閲覧することで探索時間が減少すること、閲覧傾向を類型化することができた。 本研究から、負担の大きいフィールド実験ではない実験室でのハザードマップを用いた実験でも、個人の避難行動を評価することが可能であるとわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は避難行動に多様な住民側の要因が影響することを鑑み、それらを包含する避難能力という概念を基に、避難能力評価手法の確立と避難マップの避難能力向上効果を実証することを目的とする。 現在までに、津波避難が想定される地域の住民を対象としたアンケート調査により、避難行動時のリスク認知の意識構造を解明してきた。さらにその成果を活用して、避難行動を実験的手法により明らかにしてきた。新型コロナウイルス感染症の拡大という想定外の事態はあったものの、2020年度にはフィールド実験に代わる実験室実験により、研究の主目的に概ね合致した避難行動の評価手法を確立することを目指し研究を進めてきた。今後はこれらの成果を踏まえて、社会や個人に援用可能な避難行動の在り方、避難計画のモデルやツールを構築することが、残された命題となっている。以上のことより、研究全体としては成果が得られており、(2)を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は最終年度となるため、本研究の研究成果を実際の個人の避難行動へ展開すること目指し、既存の避難行動の促進を目的とした各種取り組みを調査する。既存の取り組みでは個人レベルで避難に関する情報をカードに記載する形式等があるが、個人によってリスク認知の構造は多様であると本研究から判明しているため、個人の地震のリスク認知や避難行動におけるバイアスを考慮した避難行動の促進の方策を提案する。ハザードマップを用いた避難行動実験に関しては、2020年度までの実験手法を精査し、実験手法の精緻化、効率化、新たな対象地域のマップの導入、リスク認知や視線計測の評価手法の検討、被験者の拡大等を試みる。これらの研究成果は積極的に学会等で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い実験形式をフィールド実験から実験室実験へ切り替えたため、当初予定していた機器や実験補助者への謝金等不要となり、使用額に変更が生じた。2021年度は2020年度に確立した実験手法を援用し、実験内容の精緻化や効率化を図る予定であり、当初予定通り予算を執行する計画である。
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