研究実績の概要 |
本研究課題における計画の中で令和2年度に位置付けたテーマは、高齢者における口腔と全身の関連性からコモンリスクファクターを探索することである。高齢者における口腔機能の低下は全身の健康状態に影響を及ぼすと考えられるが、これまでのところ集団ベース研究はほとんどない。そこで、高齢者における口腔機能を含む口腔状態の実態を記述統計学的に分析し、全身疾患との関連性を検証した。後期高齢者歯科健診を受診した者のうち、口腔機能に関連するデータ項目に不備が無い20052名(75歳)と 12410名(80歳)を対象とした。歯科医院での診査・検査から得られた4項目(咀嚼能力・嚥下機能・口腔乾燥・歯数)より算出した『客観的オーラルフレイル得点』、ならびに、対象者が回答した質問紙から得られた7項目(噛み具合, 発音, 口臭, 飲みにくい, 口の渇き, 奥歯で噛みしめられる, むせる)より算出した『主観的オーラルフレイル得点』を用いて以下の知見を得た。 20歯以上を有する者の割合は、73.0%(75歳)および 62.1%(80歳)であった。客観的オーラルフレイルを有する者は 41.2%(75歳)および53.2%(80歳)であり、主観的オーラルフレイルは54.0% (75歳)および56.5%(80歳)であった。 客観的オーラルフレイルと有意な正の相関を示したものは主観的オーラルフレイル、罹患している全身疾患の数、年間の医療費および歯科医療費であった。反対に、負の相関関係であったものは、健全歯数、残存歯数そしてBMIであった。すなわち、口の機能の衰えが重症化すると、罹患する全身疾患の種類が増え、医療費と歯科医療費が高くなると言える。また、健全歯数が多いほど、残存歯数が多いほど、そしてBMIが低値でないほど、口の衰えの程度は軽度であった。
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