研究課題/領域番号 |
18K02252
|
研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
藤原 葉子 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50293105)
|
研究分担者 |
石川 朋子 聖徳大学, 人間栄養学部, 教授 (70212850)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | ビタミンE / 膵β細胞 / 高脂肪食 / インスリン分泌 / 糖尿病 |
研究実績の概要 |
高脂肪食や肥満により血糖値が高くなると、膵臓はβ細胞の増殖・肥大を誘発し、インスリン分泌量を増加することで血糖値を維持するが、この状態が長期間続くと膵機能が破綻し、最終的にはインスリン分泌不全となることでII型糖尿病が発症すると考えられている。近年膵β細胞は高脂肪食摂取後の3日程度という非常に初期の段階で、全身のインスリン抵抗性とは独立して著しく増殖することが報告されている。本研究では、ビタミンEの同族体の一つであるトコトリエノール(T3)の高脂肪誘導性耐糖能異常改善作用メカニズムの一つとして、高脂肪食負荷による初期の膵臓β細胞への影響を検討する。さらに、高脂肪食の質について検討するため、摂取脂肪の種類や他の食品因子の作用についても検討することを目的とする。 高脂肪食摂取マウスにビタミンEとしてαトコフェロール(αToc)あるいはT3を同時投与、3日後の膵臓及びβ細胞について、分化・増殖、アポトーシス、酸化ストレスについて免疫組織科学的手法で比較評価した。さらにこれら及びERストレス等の関連遺伝子の発現を調べ、組織学的評価と比較検討した。また、高脂肪食12週摂取マウスの膵臓を再解析し、初期の応答と比較した。高脂肪摂取によるβ細胞の増殖誘導の詳細は不明であるため、高脂肪食の油脂源として脂肪酸組成の異なる油(パーム油を使った比較、および、食品成分としてポリフェノールの一種であるピセアタノールを用いて、高脂肪食摂取の初期の応答への影響を検討した。さらにin vovoだけでなく、ヒトβ細胞モデルとして1.1B4cellを用い、ビタミンEの直接作用についても検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年までの結果から、高脂肪食による膵臓β細胞の応答に対するビタミンEの効果の評価法として、組織免疫染色法だけでは差が小さい可能性があることが問題となっていた。この解決のために、膵島及び膵β細胞の分化・増殖だけでなく、アポトーシス、酸化ストレス等について免疫組織学的手法での評価項目を増やして再検討し、長期摂取時のサンプルを再解析した結果と比較した。さらに、分化・増殖、細胞死、酸化ストレス、ERストレス関連遺伝子の発現量を評価し、組織学的所見と合わせて検討した。高脂肪食摂取による膵β細胞の分化・増殖メカニズムはまだ不明であるため、ビタミンEだけでなく、当初3年目の実施予定であった他の食品成分の影響を先に検討することとし、ポリフェノールの一種であるピセアタンノール(PIC)を用いて、ビタミンE同族体との作用を比較検討した。PICはT3とは異なり、高脂肪食3日間摂取で白色脂肪蓄積量を顕著に低下しており、高脂肪食摂取によるβ細胞の増殖能を抑制した。さらに、ヒトβ細胞モデルとして1.1B4cellを用いてビタミンEが直接増殖に関わるのかを検討したところ、T3は細胞増殖を増殖すること、およびパルミチン酸添加によるERストレスを緩和する作用を持つことが示唆された。以上のように、昨年度までは研究遂行に若干の遅れがあったが、当初3年目の予定であった食品成分による影響の研究、および2年目の予定であった高脂肪食の脂質源の違いの実験の立ち上げが進み、さらに直接作用としての培養細胞の実験を進めることができたため、十分遅れを取り戻すことができた。培養細胞の実験をさらに深めるために研究の1年間延長を希望する。
|
今後の研究の推進方策 |
膵臓β細胞は、高脂肪食摂取後3日という短期間で、高脂肪条件に対応する代償作用として増加する。そのメカニズムの詳細は不明であるが、この時のビタミンEや摂取脂肪の違いによる影響を、マウスを使ったin vivoと並行して培養細胞を使ったin vitroの系でも検討する。 短期間の高脂肪食摂取に応答する膵臓の分化・増殖機能の作用メカニズムは明らかでないことから、高脂肪食の油脂源として飽和脂肪酸を多く含み、近年摂取量が増加しているパーム油、n-6系・n-3系の多価不飽和脂肪酸を多く含む大豆油を用い、ラードが主として使われている市販の高脂肪食と比較する。 食品成分として昨年度に使用したポリフェノールでは、高脂肪食による膵臓の応答が遅れることが分かった。ビタミンEも同様な結果が得られているが、この作用はビタミンEの影響よりも明確であったこと、ビタミンE投与では見られなかった脂肪組織の顕著な現象が見られたことから、膵臓への作用はビタミンEとポリフェノールでは異なることが示唆される。また、高脂肪食への代替作用が遅延することの生理学的意義を調べるため、高脂肪食摂取3日後以降の膵臓の機能についても検討する。培養細胞における直接作用についても、ポリフェノールとビタミンEで比較する。 これらの結果を、日本栄養食糧学会大会、ビタミンE研究会での発表、および論文を作成して公開する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス蔓延により多くの学会や国際学会が中止、あるいはオンライン開催となったため、学会参加にかかる費用を使用できなかった。緊急事態宣言により動物実験は系統維持などの最小限となったため、想定した動物実験は回数を増やすことができなかった。また、購入予定だった高価格の抗体を共同研究者から供与されたほか、in vitroの実験に利用する試薬や消耗品などは、研究室の予備でまかなえた。次年度は、動物実験と細胞培養を使って最終的な結果を出し、学会発表と行うとともに論文を作成投稿する。
|