研究課題/領域番号 |
18K02253
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
若子 倫菜 金沢大学, 機械工学系, 助教 (30505748)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 審美 / 編布・編物 / 感覚・感性 / 設計 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,審美因子である「素肌脚部らしさ感」と「(視覚的)表面粗さ感」とを同時に満たす薄手タイツ(本研究ではパンティ部が付いている薄手のストッキングを指す)の設計・製造方法を確立することである.そのために,①同一の評価指標(着装脚部の明度分布)で2つの審美因子を同時に評価する方法の確立,②原糸のシングルカバード糸(SCY)における糸太さ,巻数の組合せ,色彩と明度分布との対応関係を明らかにすること,③2つの審美因子を同時に満たす明度分布を定量化し,その明度分布を再現できる薄手タイツを製造する方法を確立することを課題とした. 平成30年度は,課題①同一の評価指標(着装脚部の明度分布)で2つの審美因子を同時に評価する方法の確立について検討した.審美因子「表面粗さ感」と明度分布との対応関係が不明であることが問題点であったが,官能評価実験と着装脚部画像の分析をとおして,表面粗さ感は明度分布から得られるヒストグラムの尖度や歪度と相関関係にあること,薄手タイツの色彩(特にL*値で表わされる明るさ)が尖度,歪度に影響をおよぼすことがわかった.この成果は,「素肌脚部らしさ感」だけでなく「表面粗さ感」も同一のパラメータ(明度分布)で評価できることを表しており,本研究課題の目的を達成するために不可欠な知見である.また,主観的に判断される審美因子「表面粗さ感」を定量的に評価する方法や,複数の審美因子に共通するパラメータを用いた審美性評価方法が明らかになったことは,薄手タイツに限らず感覚的・感性的な要求性能を製品に実装する技術に役立つ,基礎的な意義のある成果と考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は,審美因子である「素肌脚部らしさ感」と「(視覚的)表面粗さ感」を同時に満たす薄手タイツの設計・製造方法を確立することである.平成30年度は,同一の評価指標(着装脚部の明度分布)で2つの審美因子を同時に評価する方法の確立を目指した.問題点は,審美因子「表面粗さ感」はW×A値(W:着装脚部における脚部上編布の見かけ糸太さ,A:脚部上編布における1ループ分の面積)が評価指標になることはわかっているが,明度分布との対応関係は不明な点である.そこで,(1)着装脚部に対する表面粗さ感(視覚による官能評価)を調査すること,(2)着装脚部の明度分布を求め,表面粗さ感に関係する特徴やW×A値との関わりを分析することを検討項目とした. 原糸はシングルカバード糸で,同一繊度で色彩のみが異なる8種類の薄手タイツを試料に用い,円筒の脚部モデルに着装させて官能評価を行った.このとき,脚部上の試料の編目密度を一定に調整してW×A値が全試料で同一になるようにした.実験の結果,W×A値が同一であっても,色彩によって表面粗さ感は有意に異なることがわかった.また,表面粗さ感は着装脚部の明度分布から求められるヒストグラムの尖度や歪度と相関関係にあることがわかった.加えて,試料の色彩(特にL*値で表わされる明るさ)が尖度,歪度に影響を及ぼすこともわかった. 表面粗さ感の評価には試料の色彩の違いによる明度分布の微小な差異が重要であることがわかったが,次年度以降の検討で用いる予定の丸平編物の設計値をパラメータとする明度差分布(明度分布から算出される分布)推測式は,明度分布の微小な差異を推測するためには不十分な精度であった.そこで,推測式の補正方法について追加の検討を行った結果,従来の編布(糸)領域の明度特性から構成される推測式に,肌領域の明度特性を加えることが推測精度の改善に有効であることがわかった.
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は,2つ目の課題:原糸とするシングルカバード糸(SCY)における糸太さ,巻数の組合せ,色彩と明度分布との対応関係を明らかにすることを目指す.この課題を解決するために次の2項目について検討する.検討項目(1)SCYの設計要素(糸太さ,巻数の組合せ,色彩)が様々に異なる試料の調製と,検討項目(2)試料着装脚部の撮影と明度分布の測定である. 検討項目(1)については,糸太さ,巻数の組合せが様々に異なるSCYは一般的には製造されていないため,自作のカバリング装置(コア糸とカバリング糸からSCYを作製する装置)などを用いて試作する.さらに,製編,染色などを施して試料を調製する. 検討項目(2)については,円筒の脚部モデルに試料を着装させた着装脚部と,中央に四角形の穴を開けた平板に調製した試料を貼付けたものと平板の脚部モデルとを重ね合わせた平板状着装脚部について撮影を行い,明度分布を測定,分析する.平板状着装脚部を併用する理由は,本来の着装脚部の表面が曲面であるために,画像において焦点の合っていない明度分布の不明確な領域が生じるためである.平板状着装脚部正面とカメラとのなす角度を変え,角度毎に焦点を合わせた画像を撮影し,より正確な明度分布の測定を行う. 当初の計画ではSCYの設計要素(糸太さ,巻数の組合せ,色彩)と明度分布における編布(糸)領域の明度特性との対応関係を明らかにすることを予定していたが,平成30年度の追加検討の結果から肌領域の明度特性との対応関係も必要であることがわかったことから,肌領域の明度特性についても追加して分析する.この追加分は,測定内容に変更はなく分析内容が追加されるだけであるため,大幅なタイムスケジュールの修正なく進められるものと予測している.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度の使用予定は,平成31年度の検討内容である設計要素(糸太さ,巻数の組合せ,色彩)の様々に異なるSCYを調製するための準備(物品の購入など)を主として計画していた.しかし,平成30年度の課題を検討する中で,次年度以降の検討に影響をおよぼすことが予想される問題(丸平編物の設計値をパラメータにもつ明度分布に関する推測式の精度不足)が明らかになったため,推測式の補正方法についての追加検討を優先的に進めた.これにより,当初の使用予定に遅れが生じた. 追加の検討課題については対応策に目処がついたため,平成31年度は,前年度に使用が遅れた試料調製のための準備と平成31年度の当初計画とを併せて使用する計画である.
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