動物革製のかばん・衣料・手袋については、家庭用品品質表示法により雑貨工業品品質表示が求められ、これを一部でも使用したものには、動物種の鑑別が必須とされている。近年カシミヤ製品の不当表示が発覚したことから、消費者保護の観点からこの法律の厳格な適用が求められている。当初は革製品の皮革に含まれるDNAを用いたPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法での鑑定を想定していたが、革の加工処理の過程でDNAが激しく損傷を受けるため、PCR法での鑑定が不可能であることが判明した。そのため、顕微鏡観察による鑑定が主となっているが、国内で生産される革製品だけでも、年間150万点を越え(平成27年度)、簡便かつ科学的な鑑定手法の確立が急務となっている。そこで、皮革に含まれるタンパク質を抽出し、酵素消化したペプチドを用いて、質量分析計による皮革製品の動物鑑定法の確立を目的とした。 まず、皮革を凍結乾燥後に粉砕したサンプルを用いて、タンパク質抽出法と酵素消化処理法の最適化の検討を行った。その結果、3種類のコラーゲンタンパク質由来である数十種類のペプチドを検出した。次に、検出されたペプチドの中から、各動物種に特異的なアミノ酸部位を探索し、動物種間で配列に違いのあるペプチドを集めた。これを、各動物種に対応したアミノ酸配列のリファレンスデータベースとした。これを参照することで、動物種間でアミノ酸配列が異なるペプチド部分を組み合わせて判定する「動物種判定システム」を構築した。ここでは、表示対象となる動物で流通量のほとんどを占める6つの動物種(ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、シカ)を対象とした。最後に検証用のサンプルを準備し、本研究で最適化したサンプル処理法により、ブラインドテストでこの動物種鑑定システムの評価を行った。鑑別の正答率100%を達成し、一般的に使える簡便かつ精確な「動物種鑑別システムの構築」に成功した。
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